技術教室コーナー 第1号

★★★燃料電池、開発競争激化★★★

 山本  寛  技術ジャーナリスト

 現代社会は石炭・蒸気機関による産業革命を経て石油・内燃機関の石油文明を謳歌しているが、超大国アメリカも石油の多くを輸入に頼らざるを得ない状況となり、国家安全保障の上からも省エネルギーに走り始めた。クリントン前大統領は自動車産業の覇権を日本に奪われそうになったことに危機感をいだき“次世代自動車のための産・学・官パートナーシップ”を立ち上げた。その中の目標の一つ、燃費3倍改善の達成手段として取り上げられたのが燃料電池だ。
 燃料電池は水素を空気中の酸素と化学反応させて電気を取り出す装置である。大量の人的資源、資金が投入されたことにより、その技術は急速に進歩してきた。ブッシュ大統領も2003年1月の一般教書演説で、燃料電池自動車および、その燃料供給システム開発のために今後5年間で17億ドルの国家資金を投入する方針を打ち出した。今日では世界各地で少量ではあるが燃料電池の量産が始まり、小型ポータブル燃料電池の中国からの輸入も一部で始まっている。


● 住宅用電源にも
 現代社会は石油という安価で便利なエネルギー源を中心に政治、経済、企業活動が展開され、その枠から抜け出すことが困難な状況になっている。このような状況は「ロックイン」と呼ばれるが、槌屋治紀『燃料電池』(ちくま新書、2003年)は、燃料電池技術の進歩と地球温暖化問題、京都議定書等の社会的要請で、この「ロックイン」の状態が早晩打破されると予見している。
 ところで燃料電池の実用化はどのように始まるのであろうか。激しい開発競争が繰り広げられる燃料電池自動車に目を奪われがちであるが、井熊均編著『燃料電池ビジネスの本命“住宅市場”を狙え!』(日刊工業新聞社、2003年)は、燃料電池の初期参入市場として住宅市場が適しているとしている。その理由として、燃料電池の分散電源をネットワークで結ぶことにより、現在の大規模集中発電・送配電システムに代わる、より経済的で環境に優しい電力システムの構築が可能であるとし、いくつかのビジネスモデルを提案している。

 この分散型電源のネットワークが更に発展したらどのようになるのであろうか。ジェレミー・リフキン『水素エコノミー』(柴田裕之訳、NHK出版、2003年)は水素を燃料とする分散型燃料電池をインターネットのように結び、水素エネルギー・ウエッブ(HEW=Hydrogen Energy Web)を構築し、どこでも、だれでも現代社会の動力源である電機エネルギーを利用できる社会を提唱している。リフキンはHEWにより、エネルギーが家から家へ、地区から地区へ、地域社会から地域社会へと横方向に流れ、自給自足と相互依存の精神に立脚した持続可能な社会の構築が可能になるとしている。


● 太陽光利用カギ
 このような燃料電池技術の進歩を見越して、既にアメリカの電力会社のいくつかは、増加する電力需要対応のために大規模発電と配電網の強化に投資するよりは、分散型電源で対応した方が経済的であるとして、分散型電源をネットワークで結ぶプロジェクトを開発している。
 リフキンの理想の実現は、水素を再生可能なエネルギーでいかに安く作ることができるかにかかっている。再生可能エネルギーの中で太陽エネルギーが最も利用しやすい。NASA(米航空宇宙局)と共同で太陽光発電を動力源とする無人飛行機“ヘリオス”の開発を進める、エアロバイロメント社のP・マクレディ博士は2025年ごろには人類は太陽光発電で全てのエネルギーをまかなうことができると予測している。最近の急速な太陽電池技術の進歩は、むしろこの予測を上回るペースで進んでおり、意外と早く石油経済の「ロックイン」から開放される日が来るのではなかろうか。

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