技術教室コーナー第4号

★★【OTEC(海洋温度差発電)で世界に貢献】★★

里見 公直(株)ゼネシス社長 

 世界のエネルギー需給や水不足、環境問題を全て解決しようと取り組んでいる企業がある。里見公直(さとみ・きみなお)社長が率いるベンチャー企業「ゼネシス」だ。海洋温度差発電 (OTEC)は、海洋深層水などの冷水と表層の温度差を利用して蒸気を発生させ、タービンを回して発電する。海洋の自然エネルギーを活用するため、化石燃料のように尽きることがないほか、二酸化炭素などの排出が少ないなど、このシステムの持つ発展性は大きい。こうした無限の可能性を秘めているにも係わらずOTECの具体技術を持ち、実用化に取り組んでいる企業は世界広しと雖もゼネシスしか存在しない。里見社長に同社のユニークで元気の出る経営方針を聴いた。


−−何故「海洋温度差発電」か?
 里見社長=海洋温度差発電の原理は早くから知られていましたが、効率性や経済性などから実用化は困難とされていました。私は神戸大学の医学部に学んだ後、神戸を基点に新酒造システムを導入した食料業務を展開していましたが、平成7年1月に起こった阪神・淡路大震災で、多くの方々が支え合ってまさにゼロから出発していく姿に感動し、「人類の幸せに地球規模で貢献できる仕事をしたい」、と思うようになっていました。丁度そのころ、佐賀大学の上原春男学長(当時)が主宰する「上原塾」に入塾し、先生の薫陶を受ける中で、OTECの技術を通じて世界に貢献したい、と強く思うようになった訳です。OTECは上原先生ご自身が「ウエハラサイクル」を開発されており、沸点の低いアンモニアと水の複合媒体を用いる事やプレートタイプの熱交換器を採用することなどにより高効率で経済的なOTECを実用化する可能性が出てくることなどが判って来ました。当時はビジネスとしては誰も手を付けようとしない、つまり儲かりそうもないから競争相手さえいない、という分野でした。他を押しのけて、相手と競争して、という意識は最初からありません。この点、私たちは幸いでした。その後、国際入札で日本政府から専用実施権を得て、佐賀大学との産学共同研究なども進める中でその実現が一歩一歩近づいてきている、というのが今の段階ですね。

−−OTECの長所は?
里見=まずクリーンで再生可能な海水を使うため、限界ということがない。そして北緯40度から南緯40度程度の範囲にある世界約百カ国でその海水の温度差活用が可能であるなど、非常に普遍性に富んでいます。またその温度者差発電としてのエネルギーの内蔵量は、例えば日本の経済水域に限定しても、そのエネルギー生産量は石油換算で86億トンに相当し、これは日本の年間必要エネルギーの15倍にあたります。風力や太陽光などに比べて、安定したエネルギーであり、計画的な連続運転ができることも特長です。また、このシステムを複合化することで、海水淡水化が可能になるほか、淡水化で得られた水を電気分解して水素を効率よく取り出すこともできます。更に深層水に含まれるリチウムなど稀少金属の回収も行うことも出来ます。このほかマリノフォーラム21が行っている相模湾での深層水汲み上げによる実証プラントに私共も参加していますが、深層水汲み上げによって得られる栄養塩を活かした水産漁場の拡大など、その定期用範囲は大変広いと思っています。

−−OTEC実用化に向けた最近の動き?
里見=平成11年にインド国立海洋技術研究所からOTEC実証プラント用プレート式熱交換器を受注しました。この実証プラントはインド政府と佐賀大学との共同研究成果によるものです。インドではこのシステムを用いて1MW出力のOTEC実証プラントの建設を進めていますが、今後は5万KWの発電出力を持つプラントを1千基建設する計画があります。また平成14年には佐賀大学から世界一の海洋温度差発電実験施設を備えた海洋エネルギー研究センターを約30億円で受注しました。この施設は産学が共同してOTEC技術を更に研究するためのものです。例えばOTEC用熱交換器にはチタンが必要になるのですが、神戸製鋼所と共同で経済的で効率性の高いチタン部材や形状の開発なども行っています。こうした研究成果はOTECの経済性を更に高めることに繋がります。また佐賀大学と私共の技術でパラオ共和国に3千KW出力のプラントが建設される予定で、今後更に大規模なプラント建設へと進む動きがあります。一方、中東諸国では飲料水を得るため、石油資源を使って海水を蒸発し真水を得ていますが、この温排水が30度にもなるため、温排水が海面温度上昇を招き、海洋生物が死滅するなどの悪影響が出ています。このため、温排水の熱を利用した海洋温度差発電と海水淡水化を複合したOTEC計画が具体化し、サウジとの間で現地合弁会社を設立する方向で準備が進んでいます。ほかにも、これまで無駄に捨てられていた工場排熱あるいは発電所の冷却水などを有効利用して、温度差発電や地域・施設の冷暖房などに利用するプロジェクトが増えています。このようにOTECシステムは、海洋に限定されることなく、陸上でも需要や用途に応じて導入出来ます。かつては誰もが「夢物語り」として本気にしていなかった海洋温度差発電やその派生プロジェクトは今、一気に開花する動きになっているようです。

−−OTECの将来展望?
里見=私共ではこのOTEC技術が産油国の水不足や貧しい国々の新しい産業興しの起爆剤になること願っています。南太平洋の島々は資源に乏しく、経済的にも苦しい状況におかれています。しかし、海水の表面温度が高いため海洋温度差発電の自然条件には適っています。私共ではこうした国々に対しては温度差発電のプラントを売ることではなくプラントを提供し、その利益で還元して下さって結構ですと申し上げています。そしてもう一つ重要な事は、こうしたOTEC技術を発展途上国の若い人達に学んで頂き、自国で産業を興すプロモーターとしての役割を果たして欲しい、と願っているわけです。こうした狙いからOTEC奨学基金財団の創設準備なども進めています。

−−今後の会社展開について?
里見=私共ゼネシスの会社パンフレットには「百年少年の勇気」という言葉が印刷してあります。私にとって大切なことは、誰もがやっているからでは無く、誰もやろうとしない分野だからこそ魅力がある、のです。その想いを共有する人たちとベクトルを同じくして共に頑張って行くことに夢や喜びがある。今は会社の業務内容や名前も多少知られるようになって金融機関等から融資や出資お申し出のお話も入ります。しかし、残念ながらその方々の多くは、製品の納入実績だとか売上高がどうだ、資料を出せとかの話から始まります。しかし、企業の実力とは、「いかに多くの若者達が未来の、遠くの臭いをかぐことの出来る取り組みをしているか」、また含み資産がどの位あるかということよりも、「その会社はどんなことが出来るか、どんなノウハウの蓄積があるか」が本当の資産だと思うのです。私達の社名「ゼネシス」は、英語ですとXenesys。社名公募で選んだのですが、Xエネルギー、つまり「未知のエネルギー」を意味しています。おかげさまで多くの賛同者の協力を得てこれまで無借金経営をしています。社員や社員のご家族からも多くの出資を得ていまして、会社の方向は社員の目指す方向でもあるのです。OTECシステムを中核にしたオンリーワン企業、社会と共生する企業として飛躍を夢に描いています。