○土壌汚染対策の法制度の整備に向けた提言○

平成13年9月28日
社団法人土壌環境センター

 近年、企業のリストラクチャリングや工場周辺の都市化により、工場の増改築や閉鎖及び再開発事業の増加が著しい。また、ISO14000シリーズによる環境マネージメントシステムの認証活動も一般化してきた。このような社会現象の中で、土壌・地下水汚染が土地の瑕疵であり修復が必要なことについて国民の理解が得られるようになってきた。特に、平成3年の土壌環境基準の設定、平成9年の地下水の水質汚濁に係る環境基準の設定、それに続いて平成11年に「土壌・地下水汚染の調査対策指針運用基準」(以下「調査対策指針運用基準」という)が環境庁より通知され、土壌汚染問題及びその対策方針が明確になり、地方公共団体をはじめ、この問題に関係する事業者、土地取引関係者、調査対策を事業とする者がおおむね統一した見解を持つ時代を迎えた。実態として、「調査対策指針運用基準」が定着し始めたところである。

 このような時代を迎えるに当たって、まだまだこの分野が我が国で一般化するには技術面や社会制度面での整備が不十分であり、関係者が協力してこの問題の解決に向かう目的で、平成8年4月に(社)土壌環境センターが設立された。その後、上記したような変遷があり、現在に至っている訳である。
 特に近年、センター会員企業は、「土壌汚染対策」の関連工事に取り組む機会が飛躍的に増加しているが、その際に、「土壌汚染対策」に関する法制度の未確立にともなう様々な問題に直面しており、「土壌汚染対策」のみならず、「都市再生」を促進する上での極めて大きな障害となりかねない状況となっている。
 環境基準を達成するための法制度が未確立なのは、市街地土壌汚染の分野のみであり、汚染の顕在化が益々進む現状及び汚染対策が急速に進められつつある現状を直視すると、その整備は急務である。

 当センターとしては、昨年12月19日に環境省内に設置された「土壌環境保全対策の制度の在り方に関する検討会」に大きな期待を寄せるものであるが、「土壌汚染対策」に実際に携わり、現実を熟知している会員企業で構成される団体の立場から、実効性のある望ましい土壌汚染対策に係る法制度の構築を願って、以下のとおり提言するものである。

1.法律をつくる上での基本的な考え方について
(1) 土壌環境に係る法は、汚染の未然防止と汚染された土壌の汚染対策の両方について定めるべきである。
(2) 法の目的として、国民の健康の維持に加えて油汚染等の問題も考慮して、生活環境の保全も含めるべきである。
(3) 汚染土壌の対策は、土壌保全を考えれば浄化が最も望ましいが、国民の健康と生活環境の保全が保持される範囲において、技術的かつ経済的に適用可能な対策とすべきである。
(4) 土壌汚染対策を進める上で、地下水汚染対策との混乱が生じないように、地下水汚染対策を扱う水質汚濁防止法とは明確に区分した土壌汚染対策を目的とした法制度にすべきである。
(5) 土壌汚染対策に係る法制度において、汚染土壌と土壌中の廃棄物の扱いに混乱が生じないようにすべきである。

2.対象となる土壌汚染
(1) 暴露経路
法の対象とする土壌汚染の暴露の経路については、地下水経由の暴露経路に加えて土壌の直接摂取の経路も対象にすべきである。また、再開発等の工事に伴い油で汚染された土壌から油の流出や悪臭の発生があることから、生活環境に係る経路も規制の対象とすべき。
(2) 規制対象物質
土壌環境基準の対象となっている物質を対象とする他、油等も対象にすべきである。その他環境汚染の原因となるおそれのある各種化学物質ついても、規制対象として検討すべき

3.汚染地の調査及び情報管理
(1) 調査は、規制対象物質を取り扱った工場等の操業停止や用途転換を図る場合及び規制対象物質を取り扱った履歴のある土地の土地改変行為が伴う場合には、土地所有者等は、土壌調査を行い、その結果を所轄自治体に報告すべきである。
(2) 調査対象範囲は、地下水汚染が問題となる場合は深度方向に汚染の存在する範囲までとし、直接摂取に係る含有量が問題となる場合には、調査深度は少なくとも将来において、土地の改変が及ぶ可能性の考えられる深度までとすべきである。
(3) 調査を行う者に調査の実施能力が無いと判断され、かつ、緊急度が高い場合には、公共が調査を実施すべきである
(4) 調査対象となった土地の調査及び対策の結果に関する管理台帳の整備・保管を自治体に義務付けるべきである。
(5) 自治体に報告された情報は、公開を原則とすべきである。

4.土壌汚染対策要件及び対策の内容について
(1) 調対策に係る要件について
汚染土壌の浄化等の対策に係る要件については、直接摂取の場合と地下水経由の場合に分けて設定すべきである。この場合、
ア.直接摂取の暴露経路に係る汚染土壌の対策が必要と考えられる「要措置レベル」が、先般、「土壌の含有量 リスク評価検討会」報告書に示されたところであるが、このレベルを超えた場合には浄化等の対策を必要とすべきである。
イ.地下水等の汚染を経由して生じるリスクを低減するための対策の発動要件を定めるべきである。また、発動要件の設定に当たっては、当該汚染地の周辺の地下水利用状況等の特性を考慮すべきである。
(2) 直接摂取に係わる特定汚染地の対策として、浄化対策の他、直接摂取の危険が無くなる客土等(封じ込め、不溶化、天地返し、覆土、アスファルト被覆等)による対策も可能とすべきである。ただし、客土等の場合には、将来の掘削行為による拡散や接触を防止するため自治体の管理台帳に登録し、リスクの管理を継続すべきである。
(3) 対策についての完了に係る判断の基準を明確にすべきである。直接摂取で生じるリスクを低減するための対策では、将来の土地改変に伴う土地の掘削深度等も考慮して、判断要件を決定すべきである。 地下水等の汚染を経由して生じるリスクを低減するための対策では、対象物質による地下水汚染の可能性が無くなった状態の判断要件を設定し、その要件を満足する段階で措置の終了とすべきである。なお、汚染土壌周辺に残された汚染された地下水については、水質汚濁防止法による地下水汚染対策の枠組みの中でその対策の必要性について判断すべきである。
(4) 現に地下水汚染が見出されていない場合であっても未然防止の観点から、環境基準を超える汚染土壌から地下水への溶出を継続的にモニタリングすべきである。
(5) 国は、土壌汚染に係る調査・対策措置に係る技術指針等を整備すべきである。
(6) 土壌汚染対策調査及び対策工事等の信頼性の確保のため、土地所有者等は都道府県知事にその計画について、届け出又は認可 等の申請を義務付けるべきである。

5.自発的な取り組みについて
(1) リスク管理地において土地所有者等が自発的に環境基準値以下まで浄化する努力をした場合には、管理台帳からの抹消等の自主的取り組みを評価する措置を構ずるようにすべきである。
(2) なお、前項の対策に際しては、自治体への届出を原則とすべきである。

6.対策等に係る公的な支援について
(1) 国は、浄化の困難な低濃度の汚染土壌の拡散を防止し、かつそれを安全に管理するため、例えば海面埋立に活用するなど浄化の困難な低濃度の汚染土壌の利用を促進する方策を検討すべきである。
(2) なお、中小零細企業の工場・事業場については、地方自治体の公的関与による対策を可能にする事業制度を設けるとともに、その費用に係る必要な経済的な支援制度を設立すべきである。

7.汚染の予防について
(1) 土壌が汚染されている土地から搬出される土砂については、未然防止の観点からその移動について適切な規制措置を講ずべきで ある。
(2) 土壌汚染の原因となる有害物質を利用する工場・事業場においては、それらの物質収支を把握するなど、適切に管理することにより 土壌汚染を未然に防止すべきである。

8.その他
(1) 国は、土壌汚染に対する適切な対策が取られれば、安全で快適な生活環境を確保することが可能であることについて、国民の十分な理解を得られるように啓発・情報の提供を積極的に行うべきである。
(2) 技術開発等に関する研究に対する国の体制の確保及び支援制度を検討すべきである。
土壌汚染対策により浄化された土壌については、再利用を促進する方策を検討すべきこと。
(3) 国は、自然汚染による土壌汚染についても調査し、国民に注意を与えるとともに、汚染の拡散源にならないよう必要な措置を取るべきである。
(4) 国は、民間が実施する土壌汚染対策・調査事業に対して、適切な税制優遇措置等の経済的支援制度を設立すべきである。