経済コーナー第2号

十市  勉

 日本エネルギー経済研究所常務理事
東京大卒 同大理学博士


★★ 【 CO2削減戦略再構築を 】★★

使途まず厳正評価−「石油石炭税」事実上先取り

 日本では環境省を中心に環境税の導入の検討が進んでいるが、課題は多い。石油税を改め今秋から実施される見通しの「石油石炭税」との二重課税問題も生じる。京都議定書による二酸化炭素(CO2)削減戦略の有効性を再検証し、新たな枠組を再構築していく視点も不可欠だ。

炭素税の要素一部盛り込む
 
ロシアの批准を待ち京都議定書が年内に発行する期待が高まるなか、環境省は2005年以降の導入をめざし温暖化対策税と呼ばれる環境税の具体的な制度設計の検討を始めた。同省の資料によれば、温暖化対策税はその税額が各燃料のCO2(換算)排出量に比例し、すべての化石燃料とその他の温暖化ガスが課税対象となる。環境税の典型といえる炭素税とほぼ同一のものと考えてよい。
 現在、わが国は昨年6月の京都議定書批准を踏まえて、段階的なアプローチで温暖化防
対策を進めている。第1ステップ(2002〜2004年)では、産業界による自主的取組の実効性向上や現行施策の強化に重点を置いている。しかし、最近の原力開発の停滞や民生・運輸部門での対策の遅れから、環境省は第2ステップ(2005〜2007年)の早い時期に環境税導入が必要になると考えている。
 
他方、経済産業省はエネルギー税制グリーン化の一環として現行の石油税を石油石炭税(仮称)に改める法案を今国会で成立させ、今年10月からの実施を目指している。その税率は1「ャ当たり2,040円で据え置くが、液化天然ガス(LNG)と液化石油ガス(LPG)は1ォ当たり各720円、670円を1,080円に引き上げ、また石炭には1ォ当たり700円を新たに課税する。石炭はその課税額から試算すると炭素ォ当たり1,070円の炭素税が課せられることに相当する。他燃料については炭素税相当分の税額は明らかにされていない。
 
この見直しで最も注目されるのは本来エネルギーセキュリティー(安全保障)対策を目的に導入された現行石油税の体系に事実上、炭素税の要素が組み込まれた点である。すでに石油税による歳入の約40%が温暖化対策につながる省エネルギーや新エネルギー、天然ガスの利用促進などに使われていることから、その財源をCO2排出量に応じた化石燃料への課税分の税収でまかなおうという考え方である。その結果、従来エネルギーセキ
ュリティー対策の一環として利用が促進されてきた石炭が温暖化対策の観点から新たに課税されることになった。さらに、この税率見直しで増える税収分の約半分を主に民生部門におけるCO2削減対策の予算として環境省が担当することでも経済産業省との間で合意がなされている。


低率環境税で二重課税にも
  このような状況を踏まえて、以下では現在、環境省を中心に導入が検討されている環境税をめぐる問題点、また、その必要性をどう考えるかについて述べる。
 
環境税については、中央環境審議会(環境相の諮問機関)の地球温暖化対策税制専門委員会が昨年6月の中間報告で基本的な考え方を打ち出している。それによると、わが国を取り巻く厳しい経済情勢やすでに規制や自主的取り組みなどの温暖化対策が行われている現況を考えると、低率課税によって価格インセンティブ(動機づけ)効果による削減と、その税収による財源を温暖化対策に振り向けることが現実的であるとしている。
 
その根拠になっているのが、環境税の効果に関する6つの研究機関による試算例である。それによると、2010年のCO2排出量を90年より2%低い水準に抑えるには、価格インセンティブ効果だけに依存すると炭素ォ当たり13,000〜35,000円(ガソリン1ャ当たり9〜23円に相当)の高率課税が必要となり、税収は約4.5兆〜12兆円にも達する。それに対して価格インセンティブ効果と税収を活用した温暖化対策効果を併用すると炭素ォ当たり3,000円(ガソリン1ャ当たり2円に相当)の低率ですみ、税収は1兆円程度になるとしている。
 
環境税の制度設計を進める際に最も重要な論点は、税率と、どの段階で課税するのかである。
まず、現実的とされる低率課税の問題点は、CO2排出量の増加率が最も大きい運輸や民生部門では、ガソリン価格や電気、ガス料金の変動に埋もれるほど低率であり、価格インセンティブ効果による削減がほとんど期待できないことである。その結果、その税収を用いた省エネルギーや新エネルギー技術などに対する補助金政策の有効性が決め手となる。そうなると石油石炭税のうち、炭素税に相当する税収分を省エネルギーや新エネルギー対策などに向けようとする制度と本質的な違いがないことになる。
 
課税段階については、環境省の中間報告はすべての化石燃料に対して炭素含有量に応じて輸入段階で課税する「化石燃料下流課税」、CO2排出量に応じて排出者に課税する「排出量課税」の3案を提示している。汚染者負担の原則から言えば、下流に行くほど望ましいが、徴税コストや電気の扱い(発電形態によるCO2排出量の違い)などを考慮すると、制度の効率性の面から上流課税が現実的な選択肢となる。
 そうなると、環境税の導入は、納税義務が課される化石燃料の輸入者にとっては、石油石炭税に組み込まれた実質的な炭素税に上乗せされる二重課税になるなど問題が非常に
多い。
排出権取引と比較検討必要
  こう考えると、今回の石油税から石油石炭税への税制見直しはある意味では環境省が検討を進めている環境税の基本的な考え方を先取りしたものと見ることができる。従って、いま政府に必要なことは、京都議定書の目標を達成するため化石燃料に新たな課税を求めることではなく、現行の政策措置の効率性、有効性を高めると同時に京都メカニズムの活用に向けた条件整備伊全力を挙げることである。そのためには次の課題に取り組むこと
が重要である。
 
第1に、CO2削減対策に向けられている税収の使い道が費用対効果の面でどこまで有効なのか厳正な評価を行うべきである。石油石炭税などのように税収の使途があらかじめ決まっている特別会計の場合、無駄な支出が増えて、効率性が損なわれる傾向が強いからである。その意味ではセキュリティー対策と温暖化対策の2つの政策目標を担う石油石炭税は将来的には区分ないし分離して、それぞれの受益者負担の原則を明確にすること
で制度のさらなる効率化を目指す必要がある。
 
第2に、環境税などの課税政策を考える際には、共同実施やクリーン開発メカニズム(CDM)、排出量取引など京都メカニズムによるCO2削減費用との比較検討を十分に行うべきである。2001年に発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第3次評価報告書でも示されているように、国内対策によるCO2の限界削減費用が日本の場合、米国やEUより非常に割高であるため、排出量取引によるメリットを最も享受できる立場にある。
 
そのため京都メカニズムをうまく活用できればわが国全体のCO2削減費用を大幅に減らすことが可能となる。国際的な排出権市場で最大の買い手になる日本は、共同実施やCDMなどの取り組みを強化して、国際的な排出権価格の引き下げを目指すべきである。
 昨年3月に閣議決定された地球温暖化対策推進大綱で揚げた温暖化ガスの削減目標の達成が困難視されるにつれ、今後、財政当局や関係省庁からは有力な財源確保策として環境税の導入を求める声が強まる恐れがある。その際、重要なのは米国や中国など途上国が義務を負わない現行の京都議定書が長期的な地球温暖化対策として本当に有効なのか、原点に戻って再検証することである。
 
遅くとも2005年から第2約束期間(2013年以降)の削減目標などを巡る国際交渉が始まるが、日本は長期的な技術開発戦略をベースに米国や途上国が参加できるような新しい枠組を提示する必要がある。日本の経済力が一段と低下するなか、わが国は省庁の利害を超えて、官民が協力して総合的な地球温暖化戦略を再構築すべきである。