経済コーナー第9




★★【社会的責任、投資の対象に】★★


●はじめに
 グローバルに活動する大企業の間で、企業活動に伴う環境や人権、労働などに配慮する企業の社会的責任(CSR)への関心が高まっている。同時に、そうしたCSRの観点で、投資先企業を選ぶ社会的責任投資(SRI)型の投資信託も広がりつつある。
 企業の社会的責任を問う動きは、過去にも何度も起きた。米国では1960年代のベトナム戦争、70年代以降の南アフリカ問題、日本でも60-70年代の公害事件や商社批判などの節目があった。企業活動が社会に及ぼす影響は多様。ただ、過去の社会的責任論議は、企業と社会の間の負の摩擦に目が向けられがちで、企業も受け身だった。


●環境・人権も経営
 これに対して、今日のCSR、SRIの底流は明らかに異なる。企業の外にあり、外部コスト扱いだった環境や人権、倫理などへの配慮を、企業の社会的貢献活動やコンプライアンス(法令順守)などとともに、企業の経営活動のプロセスの中に組み込むことが、まず求められる。
 そうした活動への取り組みの評価が、SRIを通じて市場価値に置き換えられ、しかもグローバル投資の形で企業の財務にも投影してくる。また、企業側も持続可能性(サスティナビリティ)の観点から、自らの持続性を求められる。つまり、単に「環境に優しい」とか、慈善活動の域を超えて、企業の本来活動としてそうした責任をとらえることが迫られているのだ。
 谷本寛治編著『SRI 社会的責任投資入門』(日本経済新聞社、2003年)は、SRIの歴史、各国の取り組み、投資の評価やスクーニング(選別)などの技術的な手法、情報公開、企業統治(ガバナンス)などの論点を押さえ、SRIの「今」を網羅している。本格的な入門書であり、かつ包括書でもある。複数の筆者の分担だが、編著者の谷本一橋大教授の構成によって全体の整合性がよくとれている。


●地域社会に利害
 SRIの視点の1つは、企業とステークホルダー(利害関係者)との関係だ。ホルダーは株主、顧客、従業員などだが、米資本主義では株主、日本では企業人が軸とされてきた。SRIでは地域社会あるいは市民社会が加わる。谷本教授は「日本は市民社会の動きが弱く、非政府組織(NGO)などを育成・支援していく必要もある」と語る。
 エイミー・ドミニ著、山本利明訳『社会的責任投資』(木鐸社、2002年)は、米国でSRIファンドを展開している専門家による体験的手引書。SRIは投資先スクリーニング、企業との直接対話、さらに、本書が一章を割くコミュニティー経済開発との連携が特徴だ。この点は米ファンドにとって欠かせないテーマだ。日本のSRIを考える上で、銀行などの既存のルートとは異なる地域金融の役割をどう担うかの見極めも必要となってこよう。
 高巌ほか著『企業の社会的責任』(日本規格協会、2003年)は、CSR分野の国際標準化機構(ISO)作業を検討している日本規格協会のCSR標準委員会メンバーによる共同執筆。同書は、ISOでの規格化の流れや、欧州連合(EU)などの国際的潮流の分析を中心に構成されている。
 企業活動は経済的、環境的、社会的な3つの側面(トリプルボトムラインと呼ぶ)を評価される。一方でそうした評価の根底には、グローバル化、持続可能性、マネーの投資対象という3つの潮流が流れている。こうした潮流は、各国政府の枠を超えて、直接、企業を巻き込むのだ。
 SRI投資と投資機関の受託責任との関連、企業スクリーニングを巡る各国の文化的な相違の評価など、論議を呼ぶ諸点も少なくない。これから株式投資や投信を始めようという人は、専門のSRIファンドの吟味に加えて、自分の投資が環境に、社会に、あるいは我が子の将来を託す地球にどう役立つのかに思いをはせて、投資銘柄を選び、自らSRIを実践する手もある。