経済コーナー第10

茅  陽一

東京大学名誉教授


★★【地球温暖化対策の枠組み−京都議定書後の展望を−】★★


達成方法を多様に「排出量」と異なる目標も
 
地球温暖化対策の「京都議定書」は2012年までの枠組みを定めたものであり、2013年以降の対応について議論を始める時期にきている。現行の温室効果ガスの排出量削減に代わる目標の設定も含めた発想が必要であり、日本がその国際的合意への議論を先導すべきである。


参加国限られ負担も不公平
 わが国は20025年6月に京都議定書を批准した。この議定書では、第一約束期間、すなわち2008年から2012年までの5年間についての温室効果ガス削減目標について定めており、それ以後の将来の枠組みについては2005年末までに議論を開始することだけが定められている。
 温暖化問題の重大性はいまさらいうまでもないし、いったん批准した京都議定書の目標を達成すべく、日本が全力を傾注すべきことは当然なのだが、一方において温暖化問題が1世紀ないしそれ以上にわたる長期的対応課題であることを考えると、2012年以降の取り組み姿勢をもう一度考え直してみることは重要である。
 実際、世界的にも2013年からの第二約束期間以降の温暖化対応のあり方については、既にいろいろなところで議論がはじめられている。
 たとえばオーストラリアの経済学者マッキビンらは「京都以後の気候変動政策」という著書を昨年発表し、京都議定書目標の不備を論ずるとともに、単位温室効果ガス削減コストが等しくなるよう各国の目標を設定するのが公平である、との提言を行っている。これは政治的均衡のもとに1990年基準で温室効果ガスの絶対量の削減を定めた京都議定書にくらべ、より合理的な目標設定を提案した好例といえるだろう。
 筆者は、昨年から経済産業省の産業構造審議会の小委員会(環境部会地球環境小委員会)の委員長として、この第二約束期間以降の目標問題についての議論に参加したが、今回これを一応とりまとめたので、その内容を参考にしながら私なりの今後のポスト京都議定書のあり方についての意見を述べてみたい。
 京都議定書の最大の問題は、参加国が限定されているためにその効果がきわめて限られていることである。発展途上国にはどのような形であれ削減目標が一切なく、しかも米国が離脱しているために、たとえ議定書が発効したとしても、削減努力をするいわゆる「ANNEX−I」諸国の排出量は世界の一部分に過ぎない。図はエネルギー起源の二酸化炭素排出量を示したものだが、米国以外の「ANNEX−I」諸国の排出量を足し合わせても世界全体の30%程度にしかならない状況である。



 そこで議定書への参加をより多くの国にうながしたいところだが、それをさまたげる要因がいくつか存在する。その一つは、参加国の削減努力はかなりの経済負担を伴うため、その国の商品の生産コストが上昇し、国際市場では何もしない非参加国が相対的に有利になることである。
 また、この議定書の場合、参加した国が目標を達成できなかった場合は何らかのペナルティーを科せられ、一方非参加国はそうしたペナルティーがない。これも明らかに議定書参加のディスインセンティブ(負の動機づけ)である。これでは参加国の増加とういう形で議定書の効果をあげることは容易ではない。
 もう一つの大きな問題は参加国の間でのコスト負担の不平等性である。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第三次報告によると、京都議定書目標を達成するために必要なコストを炭素税の形で求めると米国、欧州、日本それぞれに必要な値はほぼ2対3対4の比率になる(多くのエネルギー環境モデルの推定値の平均)。
 それにドイツの東西併合、英国の北海天然ガス導入など、モデルに入っていない別の好条件を考慮すると、必要コストはこれ以上の開きになると思われる。実際、世界の温室効果ガス排出の最近のデータをみると、欧州主要国に関しては、基準年にくらべドイツは20%、英国は12%といった大幅な削減を実現しているのに対し、日本はそのさまざまな努力にもかかわらず5%増(2001年度実績)になっており、この事情をうらづけている。
 やはり議定書でも目標は、各国の努力ができるだけ公平に評価されるよう作るべきで、現在の京都議定書目標は残念ながらその要請からはかなりずれている、といわなくてはなるまい。


第二約束期間、新たな発想で
 温暖化を本当に食い止めようとするならば、上記の効果の限定性やあ公平性の欠如という課題はなんとしても解決しなければならない。そのためには今後の目標設定に第一約束期間目標とは異なった考えが必要である。
 それではどのようなやり方が考えられるだろうか。その第一は、目標そのもの、およびその実行におけるコミットメント(約束)の形態を多面的にすることである。各セクター、あるいは各商品のエネルギー原単位などを目標に加えるのはその一例である。
 工業技術のグローバル性を考えれば、これらに関する世界共通の目標設定は、産業経済事情の大きく異なる諸国に(多少、国ごとの違いはあるにしても)排出総量の削減比率目標と課するよりはるかに合理的であるし、また、省エネルギー目標の追求は経済的にも有効なノーリグレットの方策(温暖化の影響を蒸ししても経済的に意味のある方策)である。
 したがって、発展途上国であっても、このような方策の推進は有利なはずである。ただ、発展途上国は従来から温暖化に対する先進国の責任論を主張しており、それを考えれば上記目標を先進国にのみ法的拘束力のああるものとし、発展途上国についてはこれを自主的行動の努力目標とした上でその順守を先進国が支援する、といった方式も考えられる。
 その第二は、第一の考えともリンクするのだが、国の間の公平性と実行可能性を考えても、排出量目標ではなく行動目標をかかげることである。たとえば、家電諸製品についてはエネルギー消費に一定基準設けその普及について一定のルールを作り、各国にそのルールの導入を推奨、ないし場合によっては義務付ける方式である。先進国では住宅断熱基準とそれにそった住宅の優遇も別のより例だろう。


複層的働きかけ、日本が先導役に
 上記のような目標は、京都議定書の現在の形とはかなり異なることはたしかである。その意味でその実現には外交交渉上で相当な努力が必要と考えられる。しかし、いま温暖化対策として重要なのはなによりも効果のあがることであり、国際的にも方法的にも一元的に定めることは決して得策ではなかろう。
 政府間交渉においても従来のCOP(気候変動枠組み条約締約国会議)のみではなく温室効果ガス排出の大部分を背負う先進中進国(当然米国を含め)、中国、インドなどの発展途上大国が議論を先導し、これらの国が確実に参加する取り決めを作っていくことを目指すやり方も検討すべきである。
 さらに、そうした多国間交渉のみでなく、地球レベル、二国間レベルなどでも幅広い政府間協調を築くとともに、産業界、非政府組織(NGO)、個人など様々なレベルで温暖化対策の実行について国際的合意を図るといった複層的アプローチが行われる必要がある。
 いずれにしても、温暖化問題の長期性を考えれば、第一約束期間以後の中長期の世界の対応の枠組みはきわめて重要であり、国内外のさまざまな場で幅広い活発な議論が行われることが期待される。京都会議で議長国をつとめたわが国は、ただ京都議定書をそのままの形で守り続けようとするのではなく、フレキシブルな姿勢で国際議論を先導し、米国や途上国も参加する、より効果的・合理的な対応の枠組みの形成に努力していくことが、のぞましい姿勢ではなかろうか。



かや・よういち
34年生まれ。東京大卒、工学博士。
地球環境産業技術研究気候副理事長