経済コーナー第17

山口 光恒

慶応大学教授


★★【温暖化ガス排出権、新ビジネス活性化】★★


 地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガス(GHG)を排出する権利を国や企業間で売買する排出権取引に注目が集まっている。取引に関連した様々な新ビジネスも活発化してきた。


★議定書発効にらむ
 GHGの排出権取引には、「キャップ・アンド・トレード」(C&T)と、「ベースライン・アンド・クレジット」(B&C)の二つの方法がある。
 前者は国や企業に排出権を与えて、取引を認めるもので、一般に排出権取引という場合はこれを指す。後者はベースライン(GHGの削減プロジェクトを実施しなかった倍の排出量)を定めた上で、先進国間や、先進国と開発途上国の間などで、共同プロジェクトを実施して、排出を削減する。先進国側が自国の費用を投入した代償として、排出権を獲得することができ、ベースラインから差し引ける。京都議定書にはこうした仕組みも規定されている。
 議定書を例にC&Tについて考えてみよう。議定書が発効すると、日本を含む加盟国はそれぞれGHG排出量の上限値を順守する義務を負う。日本は、基準年(1990年)対比で6%減の11億6千万トンだ。
 日本が、あと百万トンを削減するためのコストが20億円だったとする。別の国(A国)は、それほど削減費用がかからずに目標を達成でき、さらに目標を超えて追加的に百万トンを削減する費用が5億円とする。
 GHGの場合、世界全体での排出量が問題なので、どこで削減しても効果は同じだ。C&Tの下では、日本が20億円を費やして自国で百万トン削減するより、A国に5億円を払って百万トン削減するより、A国に5億円を払って百万トンの排出権を購入した方が効率的だ。こうした取引は自国と他国の削減費用に差がある限り続き、最終的には全ての国の(限界)削減費用が均等かする。その結果、世界全体で削減費用が最小となり、最小費用で目標達成できる利点がある。
 B&Cも基本的には同じ事である。C&Tとの違いは、実施しなかった場合の排出量に比較した排出削減量を事後的に測定し、その時点で取引が可能になる点だ。議定書を例に説明したが、「国」を「企業」と読み替えれば、企業にも同じ事が当てはまる。

★ 動き出す欧州
 京都議定書が発効すれば、こうした取引が一斉に活発化する。これを見込んで、多数の企業が自社の目標を達成するために、あるいは新たなビジネスチャンスとして研究・準備を進めている。日本では今年度から環境省がC&Tの模擬実験を開始、経済産業省はB&Cの試行事業を実施している。療法を合計すると200社以上が参加しており、関心の高さが窺われる。
 一方、欧州連合(EU)は、議定書発効を念頭に2005年から本格的なC&Tを導入する予定だ。EUの制度が稼働すると、排出権売買の市場が生まれ、排出権の価格も市場で決まる。この場合、企業は自社の削減費用が、廃す津兼価格よりも高ければ、(自社で削減せずに)排出権を市場で購入し、安ければ、できるだけ削減し、余剰削減分を市場で売ることになる。
 また、これを仲買する業者や、排出量を検証する新ビジネスが登場する。現在のEU加盟国だけでも、対象施設が5千程度と見込まれ、さらに、5月に10カ国がEUに新たに加盟するため、大市場が出現する。
 B&Cはどうか。これも議定書の発効を当て込んで、いろいろな動きがある。ここではオランダ政府と世界銀行の動きに注目する。オランダ政府は自国の必要削減量の5割をB&Cで調達しようと、かなりの量の排出権を競争入札で入手している。他方で、世銀は各国政府や企業からの出資による排出削減プロジェクトを企画、現時点でCO2換算で約4千5百万トンを購入できるめどが立っている。
 これらを企業の立場から見ると、自らが資金を投じて削減プロジェクトを実施する場合、そこから発生する排出権をオランダ政府に売ることが出来れば、それだけプロジェクトの採算が良くなる。世銀の基金に出資して権利を獲得し、自社の割り当てに充当したり、あるいは外国に売ってもよい。海外では、こうした取り組みが始まっており、議定書が発効すると、この動きが一挙に加速するだろう。さらに、国際標準化機構(ISO)も参加企業や認証機関を念頭に排出量の計測や検証などの国際標準化に乗り出している。


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