経済コーナー第19



浜中 裕徳

慶応大学教授



★★【「環境立国」の具体戦略急げ】★★


 ロシア政府は地球温暖化防止のための京都議定書の批准を承認し、批准同意法案を議会に送付した。これでいよいよ京都議定書が発効する見通しが明確になった。
 近年、世界各地で氷河が後退し、熱波、干ばつ、洪水、高潮などの「極端な気象現象」による被害が頻発している。世界の科学者でつくる「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、地球温暖化が進行すると、21世紀中、「極端な気象現象」の頻度や強度が増加し、その結果、死亡、健康被害、物的損害などの影響が増大すると予測している。地球温暖化は将来の問題と考えられがちだが、こうした深刻な影響を回避しようとすれば、今から思い切った対策を実施することが極めて重要である。
 京都議定書が発効すると、日本の温室効果ガス排出量「6%削減」は、国際法上の義務として確定する。しかも京都議定書は温暖化防止の第一歩にすぎない。途上国の排出量が増加する中、先進国にも、これまで以上に厳しい削減が求められるのは必至である。
 筆者は7月に環境省を退職したが、最後の9年間、京都議定書に関する国際交渉や、地球温暖化対策に携わる機会を得た。京都議定書が採択されてから7年になり、この間、世界的には技術開発競争が激化し、ハイブリッド自動車、風力発電タービンなどの導入が進んできた。この分野で、日本の企業など関係者の果たしている役割は非常に大きなものがある。
 また、欧州などでは炭素税や、二酸化炭素などの「排出量取引」の導入に対応して、将来の炭素制約型の経済社会を見越したビジネスモデルが形成され始めている。こうした技術や市場の力を活用するシステムを普及させることによって、世界的に温室効果ガスの排出量を抑制し、削減していく余地は大きい。
 我が国では、個々に見ると、大変積極的、意欲的に地球温暖化対策に取り組んでいる企業が少なくない。燃費の良い車や省エネ型の家電製品を利用し、自宅を断熱構造にするといった努力を続けている市民も多い。
 現在、政府は地球温暖化対策推進大鋼の見直しを進めている。今後の環境行政は、こうした前向きの努力を正当に評価し、さらに多くの企業や市民がそこに参加することを効果的に後押しするような仕組み作りに努力すべきだ。そして、そのような企業や市民、自治体などと幅広く連携し、対策の輪を広げて削減ンの実績をあげていくことが大切だ。その際重要なことは、環境の改善が経済の発展につながり、それがまた一層の環境改善をもたらすという好循環を実現していくことだ。
 すでに我が国では、「環境立国」を目指すべきだという点で幅広い合意がある。いま急ぐべきは、その実現のための具体的な国内政策と国際戦略の確立である。地球温暖化問題に本格的に取り組むためには、成長著しい中国など発展途上国も含め、地球規模で一層の削減を目指す必要がある。そのための国際的な枠組みを具体的にどのようなものにするかは、我が国の将来にとって重大な意味を持つ。
 ロシアの批准が確実になったことで、今後、温暖化対策推進の機運が世界的に高まり、京都議定書の「次」のステップに関する議論も本格化するだろう。我が国が「環境立国」に向けた取り組みで実績を上げることが、国際社会の中で、我が国の主張に大きな説得力をもたせるのである。



はまなか ひろのり
=前環境省地球環境審議官。60歳。


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