経済コーナー第20



塩谷 喜雄

論説委員



★★【再び環境政治のときか】★★


急激な気象変動が焦点に

 戦争とテロの終幕が見えないまま、国際政治の表舞台で再び、「環境」がクローズアップされようとしている。ロシアの批准で京都議定書は来年2月にも発行し、来年のサミットの議長、ブレア英首相は、地球温暖化防止を主テーマに、米政府の始動をブッシュ大統領に迫る構えだ。環境で有志同盟と古い欧州の亀裂が埋まるのだろうか。

 ことし、米国のフロリダ州は度重なる大型ハリケーンの上陸で、大きな被害を受けた。大統領選では激戦が予想されたこの州で、被災地にすぐ駆けつけたブッシュ候補が高い支持を得て、再選の足場を築いた。
 当面は選挙の予定がない小泉首相は、台風23号の被災地を、少し間をおいて訪れた。

 ハリケーンも台風も、北半球の大陸東岸に沿って北上する熱帯低気圧が、巨大に成長した嵐である。その大型化や異様に高い上陸頻度について、地球の温暖化との関連は、直接的には証明されていない。
 ただ、その暴風雨の猛威と、平年の4倍近い上陸回数は、今、気象学者が注目している温暖化に伴うACC(Abrupt Climate Change=急激な気象変動)の疑いも一部では議論されている。
 地球の温暖化は50年、100年単位で進行する。海面がゆっくり上昇し、温帯の森林が徐々に亜熱帯化し、一緒にマラリアなどの病気も北上する。そうした大きな変化の過程で、限定された地域で極端な突発的に見える気象の急変が発生する。
 いちばん有名なのが、北極の氷が溶けて、大量の冷たい水が南下し、欧州の気候を穏やかに暖めてきたメキシコ湾流を遮断し、欧州が一時期猛烈に寒冷化するというシナリオだ。
 ハリケーンや台風が勢力を保ったまま上陸するのは、発生域の赤道付近だけでなく、亜熱帯や温帯の海水温まで上がっていることを意味する。温暖化の過程で、嵐の激烈化が進んでいる。

 ブッシュ米大統領が京都議定書からの離脱を宣言し、全世界の4分の1を占める温暖化ガスの排出に歯止めをかけないで居ることと、ハリケーン被害の深刻化とは無縁ではないだろう。原因を助長する政策の提唱者が、被災地で人気を集めるという皮肉な結果となる。

 政権がそっぽを向いていようと、ACCは現実に甚大な被害をもたらす。学界レベルでは米国も欧州もこの問題について活発な議論があり、温暖化対策が盛んに検討されている。
 たとえば、木材や麦ワラなどの植物系バイオマスは、それを燃やすと、植物が大気中から取り込んだCO2をそっくり大気に戻すことになる。プラスマイナスゼロで、「カーボンニュートラル」。化石燃料と違って大気中のCO2は増えない。
 さらに進めて、木材やワラ、もみ殻などから炭をつくり、それを土壌改良材として大地に戻せば、大気中の炭素量は減ってゆく。「カーボンマイナス」で、温暖化防止の効果は大きい。

 日本では古くから、もみ殻くん炭が土壌改良に利用されている。炭はきわめて小さな穴が無数にあり、そこに有用な土壌微生物が住み付いて、作物を育てる。その仕組みを応用して、関西環境総合センター・生物環境研究所の小川真所長らは、熱帯林の再生などに成功している。
 植物由来の炭が植物を大きく豊かに育てるとなると、大気中のCO2はさらに減る。米国の研究者たちもアマゾンの黒い土(大昔から炭を人為的に混ぜ込んだ土壌)の異様に高い生産性に注目し、炭を活用した農法を温暖化防止の武器にしようと研究を進めているという。
 今秋はパリでそのための学会が開かれ、日米欧の研究者が集まったという。来夏のサミットに向けてのアピールもつくり、欧米の学者は農業用の炭の規格や標準づくりまで口にしたという。日本の先進性を欧米が機動性で追い抜こうとしている。
 日本ではNPO法人の日本炭化研究協会が中心になって、標準化、規格化の検討を始めている。技術的にははるかに先行しているだけに、産官学の協調体制の整備が急務だろう。
 
イラク戦争をめぐる世界の分裂と裏腹の関係で、温暖化問題もねじれて進んでいる。ブレア首相は自国の総選挙もにらみ、盟友ブッシュ大統領にも方針転換を迫るようだ。小泉さんはただ寄り添うだけなのだろうか。




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