経済コーナー第23



周 イ生

立命館大学教授



★★【排出取引への視点−世界共通の排出基準を−】★★


 京都議定書が発効する見込みとなり、今後は米国とともに途上国をどのように参加させていくかが重要な課題になる。世界の人口一人当たり均等な排出基準を設けて、途上国は段階的に参加する仕組みとし、国内の環境問題などにも寄与する対策の実施を促すべきである。



●途上国の参加時期・基準焦点
 地球温暖化防止のための京都議定書は、ロシアの批准手続きが11月上旬にも完了することが確実となり、発効に向けて最終コーナーを曲がった。ロシアが批准すると、世界の温室効果ガスの4分の1を排出している米国抜きでも発効条件が満たされるため、議定書は来年2月にも発効する見通しである。
 来年には、2013年以降の第2約束期間の削減をどうするかという議論も始まる。その議論の焦点の一つは途上国の参加問題、すなわち先進国と同様に法的拘束力のある温室効果ガス削減目標を負うかどうかの問題である。
 途上国の参加問題を考えるに当たっては、地球温暖化防止における先進国と途上国の基本構図を押さえておく必要がある。第一に、これまで排出された二酸化炭素(CO2)の7割は、世界人口の2割にすぎない先進国からである。そのため、先進各国が京都議定書で公約した第1約束期間(2008−2012年)の削減目標(OECD加盟国と旧ソ連・東欧諸国の平均で1990年比5.2%削減)を率先して達成することが、温暖化防止の第一歩であり、途上国に前例を示す上でも重要である。
 第二に、しかし、先進国だけがいかに努力しても、今後の途上国の経済発展と人口増加を考えると、途上国が参加しなければ温暖化問題を解決できない。例えば、中国の場合、国民一人当たりでみた環境負荷は決して大きくなく、一人当たりのCO2排出量は世界平均値の半分以下にすぎないが、その大きな人口のため、総量では米国に次ぐ世界第2位となっている。
 第三に、日本のような先進国は省エネ対策などがかなり進んでいるため、CO2を一段と削減するためのコストが高く、費用対効果が小さい。同じ費用を投じるなら途上国で対策を実施する方が効率的である。一方、途上国は地球環境問題のほか、貧困問題や公害問題に直面しており、温暖化対策は優先順位が低い。自助努力には技術・資金面での限界があるため、途上国の持続可能な開発と地球環境保全を同時に実現するには、先進国からの技術移転、資金援助を拡大する必要がある。
 気候変動枠組み条約及び京都議定書によれば、途上国は現時点で直接的な排出削減義務の対象国ではない。しかし、これは無期限に削減義務を負わなくてよいということではない。途上国がいつ、どのような基準で削減義務を負うかが焦点である。


●一人当たりの排出権を同等に
 途上国に参加を求めるにあたっては、普遍的な基準を設けることが望ましい。議定書では先進国に削減目標を課したが、その基準は必ずしもはっきりしない。
 温室効果ガス排出基準を定める基本条件としては、温暖化防止に寄与すること(総量規制)、公平性原則、効率性原則、持続可能な発展に寄与できることなどが挙げられる。また、大気は地球に生存している人類全体の公共財であり、この大気を独占または多めに占有しようとすることは誰にも不可能であるし、してはならないことである。言い換えれば「大気を汚す」という「権利」は人類全員に平等である。すなわち、地球上の人々は同等のCO2排出権を持つと考えられる。
 これらの条件に照らし、本稿では「総量規制下で一人当たり均等な排出許容量」、たとえば、2100年時点の大気中CO2濃度を温暖化防止上の許容範囲と目される550PPM(産業革命前の約2倍)に安定化させるための許容排出量を世界全体の人口予測値で割った一人当たり均等の排出許容量を世界共通の「参加基準」にすることを提案する。
 一人当たりのCO2排出量は、単位エネルギー消費量当たりのCO2含有量、単位GDP(国内総生産)当たりのエネルギー消費量、一人当たりGDPなどが小さくなるほど、また一人当たりの植林量が大きくなるほど、少なくなる。
 すなわち、一人当たりのCO2排出量を抑えることにより、CO2排出抑制効果以外に、経済の効率化(省エネや産業構造の転換など)、汚染物質排出抑制(燃料転換やクリーンエネルギーの導入)、エネルギー供給構造の改善、生態系保護(植林など)、急激な経済成長の抑制やライフスタイルの転換といった様々な効果がもたらされる。
 温暖化防止上の許容範囲と目される550PPMを達成するためには、各国が持つ排出許容量(人口予想値×参加基準値)を守ることが不可欠である。ただし、米国など先進国の排出量は過去、現在、将来にわたっても、この「参加基準」をはるかに超える。米国に対して排出量をこの許容水準まで削減するように求めることは非現実的であろう。
 この場合、汚染者負担原理および世界全体の削減目標を効率よく実現するという視点から、排出許容量を超えた分は京都議定書で決められた柔軟性措置(京都メカニズム)の一つである排出権取引によって購入した排出権で賄えばよいと考えられる。
 一方、中国はいままで一人当たりの排出量が少ないと主張してきたが、この参加基準に基づけば、削減対策を講じないと2020年前後に総排出量が排出許容値を超えると予測される。つまり、前述の参加基準に照らせば、中国は2020年前後から先進国と類似の約束を負う必要がある。
 気候変動枠組み条約に定められている「共通ではあるが差異のある責任」原則に従えば、世界全体を先進国(欧米諸国や日本など)、中進国(韓国やブラジルなど)、途上国(中国やインドなど)の三地域に分けることができる。この区分に対応して、気候変動枠組みにおける参加形態も強制的(法的拘束力のある数値目標をもつ)、自主的(法的拘束力のない数値目標を自主的設定する)、自発的(数値目標は持たず、自発的に削減方策を講じる)の三つの形態に分けることができる。
 そこで、以上の分類と分析から考え合わせてみると、気候変動枠組みにおける中国参加のタイムテーブルは、自発的段階(2010年前後まで)、自主的段階(2020年前後まで)、強制的段階(2020年前後以降)の三段階に分けることができる。


●公害問題など共通の対策も
 先進国は経済発展、公害問題、地球環境問題を順番に経験してきたが、途上国はこの三つの課題に同時に直面している。また環境問題で緊急性の高いのは、大気汚染や水質汚濁、廃棄物など、都市化に伴う国内的な課題であることが多く、地球温暖化対策の優先順位はどうしても低くなる。
 しかし、途上国が直面している国内環境問題と地球環境問題は全く別のものではない。例えば、地球の酸性化と温暖化の主原因物質はともに化石燃料の消費に起因するため、両者の同時解決に寄与する対策の実施が可能である。また、温室効果ガスは影響が長期的に累積することから、途上国側も有効かつ適宜な対策を講じなければ手遅れになってしまう。したがって、途上国はこの三つの課題に同時に対応することが求められる。
 地球温暖化対策技術は、1)温暖化がなくても意義のあるノーリグレット方策(省エネ、植林など)2)温暖化がなくても中長期的に意義のある最少リグレット方策(太陽光発電など新エネルギーの開発)3)温暖化がなければ意義のない温暖化特化対策(CO2の海洋・地下貯留など)−−に大別できる。
 中国でも、3)の特化技術の開発を除けば、程度の差はあっても、温暖化対策のほとんどが実施されている。なぜなら、これらの対策は、結果的にCO2の削減に寄与するものの、もともとは温室効果ガスを削減するために実施されたものではないからである。言い換えれば、温暖化対策の大半は、CO2削減効果以外に、環境保全及びエネルギー供給改善などの多面的な効果を有している。これは、温暖化問題での南北対立を解決するための最も重要な接点であると考えられる。


しゅう・いせい=60年中国生まれ。京都大工学博士。専門は環境経済




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