第1回
リサイクルソリューションシンポジュウム
詳細報告
講演 II:『「 朗 働 」 の 時 代』
編集注:2000年5月12日第1回講演会の講演録です。


「 朗 働 」 の 時 代

有限会社 アルティスタ社長 玄間 千映子


 きょうはストレスを減らす働き方について、アメリカの取り組みからご紹介したいと思います。

 今日の日本は、とてもストレスの高い社会だと言われています。長引く不況のために、例えばお仕事もうまくいかないとか、だから給料も増えないし、増えないばかりか下がるかもしれないという、そういう風に吹かれています。その上に、やれ国際化であるとかグローバルスタンダードだとか言われまして、これまで日本の社会にあまりなじみのなかった「競争」という風が吹き込んできています。日本の社会は、もともと社員の生活の安定が第一と考えてきた社会ですから、一人だけ勝ち残るとか、一人だけ大儲けするという考え方はあまりなじみがありませんでしたし、いいとされてきませんでした。ともかく、社員の生活の安定が第一と考えてきたわけです。けれども、よきにつけ悪しきにつけ、国際化の波も、また競争化の波もまだまだしばらくは続きそうです。この社会のストレスはそう簡単になくなるものとも思えませんし、このストレスに対して打ちかっていくということを何らか考えていかなければいけないと思います。


 東洋の医学者、サナザロという医者が「5つのD」として、ストレスの怖さを示しています。その5つのDとは、不満(dissatisfactoin)のD、不快(discomfort) のD、病気(disease)のD、不能(disable)のD、そして死を意味する(death)のDを指します。つまり、不満をいつまでもため込んでいますと不快になり、不快をいつまでも引きずっていますといつの間にか心身が蝕まれて病になってしまい、そのままほっておくと使いものにならない体となって、ついには人生の終わりを迎えるということです。つまり過労死です。「病は気から」と言いますように、不満や不快という状態はストレスとなって病気のもととなり、また死に至る芽となるということです。

 今日の日本のように、景気の低迷や国際化の波、そしてIT技術の革新によって生じた様々な社会構造の変化が押し寄せている日本で、こうした変化を不満や不快というマイナスのストレスではなく、チャレンジとか向上とかプラスのストレスとして受けて立つようになれるにはどうしたらよいのか。そのことのヒントを次に述べたいと思います。

 私は、そのヒントを日本より、ずいぶん前から競争という風に吹かれていますアメリカが、どうやってストレスをプラスの方向へ向けているのかということをご紹介したいと思い、このたび「『朗働』の時代」という本をまとめました。今日は、この本の中からいくつかお話ししたいと思います。

 なぜ、アメリカではストレスが不満や不快というマイナスのものではなく、チャレンジとか創造力とか向上心というものとなって表面に出てくるのか。その答えを一言で示すならば、それは「朗らかに働くことだ」ということができると思います。人は、できるならば働きたくないと思っています。それが、どうしたら朗らかに働けるようになるのか。

 さて、そのことに入る前に、ストレスがプラスの状態に働いている時に、人間の脳(脳みそ)について少しお話ししたいと思います。

 京都大学の霊長類研究所の教授で、現在、京都大学名誉教授の大島清先生という方がおられますが、この大島先生は、脳の研究者として日本で第一人者でいらっしゃいます。その教授の話によりますと、人間の活動をコントロールしているのは、脳で出される2種類のホルモンだというのです。そのホルモンというのは、1つは「やる気ホルモン」といわれるもので、もう1つは「脳内モルヒネ」と呼ばれるものです。やる気ホルモンというのは、例えばおいしいものを食べたり、楽しいことをしたり、また素敵な人に会ったりして“気持ちがいい”と脳が感じる時にどんどん出てくるものだそうです。


 ところで、楽しいことをしていても、必ずといっていいほど何か問題にぶつかるわけです。そうすると今度は脳内モルヒネというものが出てきて、他人から見れば大変ですねと言われそうなことでも、本人にとってはさほどに感じないというふうに、うまくその痛みを体の中で麻痺させる、そのような効き目を持つホルモンがあるそうです。つまり脳内モルヒネというホルモンが、人を不満や不快というマイナスの方向に入らせず、それを押しとどめる役目をするというわけです。マイナスのストレスに入り込むのを防ぐには、脳内モルヒネをいかに自在に出せるようになれるか。困った場面になった時、うまく出すことができたらいいわけです。

 それにはまず、困った場面になった時、その困ったことを受け止めることである。そしてそのことを乗り越えようという気持ち、それは障害を障害としてとらえずに「発想の転換」をするところが大事なことだと言っています。そうすると、人間の体はよくできていて、そういったSOSを素早くキャッチして脳内モルヒネというホルモンがどんどん出てきて、そしてマイナスのストレスから解放してくれる。マイナスのストレスから解放されると、ヒトの脳というのは、また楽しいことをしたい、気持ちのいいことを考えたいというふうに動き、そこがまたやる気ホルモンというものを刺激するのだそうです。


 このように、同じストレスでもいつまでも不満や不快というマイナスのストレスではなく、チャレンジする気持ちであるとか、プラスの方向に向けていくストレスに耐える秘訣は、脳内モルヒネを自在に出せるかどうかにかかってくるわけです。

 ところで、このように仕組みは分かっても、人というのは、困った場面に対してすんなり受け止め、乗り越えようということはなかなか難しいわけです。発想の転換やプラス思考が大事であると言われても、そう簡単に割り切れるものではありません。そこで、その脳内モルヒネを自在に出せる仕組みが、どうもアメリカの雇用のシステムだというふうに私は思いました。

 アメリカでは日本と異なり、人を年齢や学歴ではなく、その人が今何に興味があって何ができるかという、その「俊の能力」というものを求めて採用します。ところが日本では、新入社員にまま見られることですが、会社にいることがすなわち仕事になってしまうという光景が見られるわけです。アメリカではそのようなことはなくて、最初に入った時、企業は新入社員であっても最初から「俊の能力」を求めて人を雇いますから、片づけてもらいたい仕事というものを明確に持っています。その仕事を間において、採用や昇進、そして異動が行われるのがアメリカの考え方です。日本では、そういう人の異動や採用や昇進などについては「人」そのものが前面に出てきますけれども、アメリカはまず「仕事」が最初に出てきます。企業は、働く一人ひとりに何をやってもらいたいのかということを具体的に見せる。働く方は、何をやるべきかということを具体的に知ってから仕事に入る。という仕組みがアメリカで行われている考え方です。

 日本では「職人芸」という言葉があるように、仕事を属人化したものとしてとらえますが、アメリカはそうではなく、人と仕事を離したものとして考えます。

 仕事を属人化させないということを、提出する書類を作ることを例にとってお話ししてみますと、以前は今ほどコンピュータというものがありませんでしたから、一つの書類を作るにしても、起案する人、資料をどこかへ行って取ってくる人、グラフや表を作る人、そしてそういうものを集めてタイプに打つタイピストという人がいました。そのように一つの仕事が4つの種類のこととしてそれぞれの人で行われていたのが、これまでの形でした。


 ところが、今日ではインターネットというものが普及してきましたから、例えば資料などもわざわざそこへ出向いていかなくても取れるようになりましたし、また、エクセルやワードといったソフトを使うことができれば、1台のコンピュータとそれを操作できる1人の人間だけで起案から資料集めまで全てできてしまうということが、今では珍しいことではなくなってきています。つまり1人の人間の中に一つの4つの種類が入ってきてしまったわけですが、出てくるのは同じ一つのものなので、日本ではやはり一つの仕事としてとらえるわけです。ところがアメリカではそこが違っていまして、出てくるものは一つであり、またそれを行うのは1人の人間であるけれども、でもそれを4つの種類の仕事としてとらえるのです。こうして仕事を具体的に顕在化させることによって、仕事に就く前に「どういうことをあなたにやってもらうか」ということが、お互い働く側に見せることができるわけです。

 日本のように属人化している仕事を、どうしたらアメリカのように切り離すことができるのかという詳しい説明につきましては、先ほどご紹介した私の書いた本のほうに譲りまして、先に進ませていただきたいと思います。

 なぜアメリカの雇用の仕組みは、人に無理がなく、やる気ホルモンや脳内モルヒネというホルモンを出させるのか。どうもこの秘訣は、日本とアメリカの雇用の考え方、仕事の扱い方、仕事をどう位置づけているかというところに起因してきそうです。アメリカでは仕事に就く前に、どういうことをしてもらいたいか、何を企業が期待しているのかを具体的に見せますし、求めます。既にそのことによって得られる報酬とか様々な条件は見せられていますから、働く側は、求められている働きがその報酬で、またその条件で納得のいくものかどうか、しっかり考えることができます。そしてその仕事の内容が、自分に気持ちがいいと思えることか、興味が持てるものか、ということも考えることができます。人はだれでも楽しいことや気持ちのいいことをしたいと思いますから、興味のないことやつまらないことを任されることほど辛いものはありません。気の重いものはありません。


 そこで、自分がどういう仕事を担当することになるかが重大な関心事となるわけですが、その重大な関心事を前もって見せるのがアメリカのやり方であり、与えてしまうのが日本のやり方だと言えるのではないかと思います。アメリカのように前もって見せることがなぜストレスをプラスのものに変えていくかといいますと、それは、やる気ホルモンと脳内モルヒネという2種類のホルモンが脳に出て、その効果が表れるまでの時間の差にどうも関係がありそうです。体がSOSを発信しますと、やる気ホルモンは脳内モルヒネと違ってすぐに効果を奏しません。効き目がすごくゆっくりなんです。ですから、その仕事が自分に受け入れられるものか、また、その条件は自分にとって納得のいくものかどうかを考えているこの時間というものが、徐々にやる気ホルモンの効果が出てくる時間になるわけです。

 そういうわけで、いざその仕事に取りかかるという時にやる気ホルモンが十分に効いていますから、仕事に取りかかる時も能動的に入り込みますし、バリバリと仕事をするということになるわけです。アメリカでは、人は仕事の処理のために採用されますから、採用された日から仕事をバリバリ片づけてもらう必要があるわけです。そのためには、最初から仕事が動機づけられているというのは非常に有効なことになるわけです。

 こうして仕事を最初に見せて納得させてから仕事に就かせるということは、実は仕事をやっている最中にぶつかる様々な問題を越える時にも、どうも有効なようです。どういう効果があるかといいますと、この効果というのは、脳内モルヒネを出しやすくさせることです。脳内モルヒネというのは、障害にぶつかった時に逃げ出さずに受けて立てるかどうか。そして障害は障害として受け止めずに、そこに発想の転換やプラス発想がどのくらいできるかによって出てくるホルモンですから、あらかじめ先にやるべき仕事を見せられ、それに携わるべきかどうかという判断が働く側にあるということは、簡単に言いますと、その仕事の難易度を見抜く目は働く側に委ねられていることになるわけです。そのため、まずその仕事にかかる時に、その仕事に携わることによって生じてくる障害であるとか、それを乗り越える時の覚悟のようなものを気持ちの中に無意識にため込んでおくことができるのです。その気持ちが、何かトラブルが起きた時に受けて立つ人間となる形として出てくるわけです。そして、そのように受けて立てるということは、つまり脳内モルヒネが潤沢に出てくるわけですから、ストレスをマイナスのストレスではなくて、そのストレスをマイナス方向に入るのではなくプラスの方に転換していく、とどめるということが可能になるわけです。

 そして、この脳内モルヒネが出れば出るほど、その人は打たれ強い性質に変わってくるそうです。例えば、私たちは日常の中でも経験がありますけれども、以前はこれぐらいのことをやるのがものすごく大変で辛い思いをした。だけども今は、同じような辛さだけどあの時ほど辛い思いはしていない、ということはいくらでもあると思います。これを私たちは「学習効果」という言い方をしていますが、その学習効果の中には、以前にそのトラブルを解消した時のやり方などが経験として残っていることももちろんありますが、そのほかに、自分の体を変えているということがどうもあるようなのです。そういうふうに人の器が大きくなったり成長したとか言われるというのは、この脳内モルヒネがどのぐらい潤沢にその人は出ていたことがあるか、ということによって変わってくるようです。

 このようにアメリカの雇用の仕組みというのは、やる気ホルモンを十分に出させてから仕事に就かせ、そしてその仕事を担当するかどうかは働く人の側に委ねていますから、問題にぶつかった時にも非常に早いうちに脳内モルヒネを出させることができる。そのような気持ちの整理というものを働く側にさせているということが言えます。

 ところで、そういう仕組みを持っているアメリカですけれども、もちろんそういうことがなかなかうまく機能しない人もいるわけです。そのあたりの切り替えがうまくいかなくて、やはりストレスにさらされてしまうという人もいるわけです。そのような人々、覚悟していてもうまく障害、問題を乗り越えることができない人々のために、アメリカではもう一つ別の仕組みを持っています。


 日本でいう人事部を、アメリカでは Department of Human Resourcesという呼び方をします。つまり人事、人の事ではなくて、人を資源としてとらえる考え方からアメリカというのは人事、人の事を扱っています。

 その1つは、働く人々を管理する考え方。この管理という考え方もちょっと日本とは違うのですが、管理する考え方、マネジメント。きちんと働いているかとかそういうことですが、そのような考え方があります。

 2つ目には、働く人々をケアする考え方というのがもう一本の柱としてあります。このことは日本の人事部ではちょっと珍しい考え方だと思いますので、少し説明させていただきたいと思います。


 このケアのシステというのは、社員が何らかの問題にぶつかった時にその問題を乗り越えるため、人事の担当者が、その働く人と一緒になって問題解決に取り組んであげるという考え方です。そのようなケアのシステムによって、マイナスのストレスに落ちそうになる、つぶされそうになってしまう人々を、そこでとどめるために機能するわけです。例えば、その問題が企業の期待している成果が出せないということであった場合に、その人の何が足りなかったのか。技術的なことが足りなかったのか、いわゆるノウハウに当たるようなことが足りなかったのか、何が足りなかったのかを一緒になって考えてあげるのです。そういうことができるのも、アメリカでは仕事を前もって具体的に見せるということができているからです。人事の担当者はもちろん、会社がその人をどのような目で見ているか、評価されているかも知っているわけですから、その人が具体的にどういう状況にあるかということも割合につかみやすいわけです。で、その人の抱えている問題を早めに拾い上げて、その問題について一緒に考えていってあげる。そういう考え方をアメリカの人事は持っています。


 余談ですけれども、このように何かのトラブルを越えていくところにアメリカでは社員教育が位置づけられています。日本のように、例えば不景気になったから広告費、交際費、教育費の3Kはとにかく節減せよという考え方ではなくて、明確に、社員の教育はコスト・パフォーマンスを上げるものとして位置づけられているのも非常に興味深い点だと思います。

 もう一つの別の種類の問題があると思います。この問題というのは、働く人々は仕事に来ている時に既に、仕事に対する動機づけも大切ですが、その動機づけを促す、もう一つそこにプライベートな生活というものがあるわけです。皆、働く人々というのはプライベートな生活を持っており、その生活と働く人とを切り離すことができないわけです。その生活に何らかの問題を持っていますと、自然とその社員は、働くということに対して集中してこなくなります。そうなってきますと、企業としても、たとえプライベートな問題であるとは言いながら何らか対応することが必要となってくるわけです。


 プライベートライフを重んじるというアメリカが具体的にどういうことをやっているかといいますと、例えば人事の担当者のところには託児所や介護施設の情報が置いてあったり、アメリカでは個人のマネジメントをしっかりせよという考え方が徹底していますから、健康保険であるとか資産運用についての情報も置かれているわけです。つまり、その人が「働く」ということのほかに「生活する」ということを支えることによって「働く」ことに集中させるという、間接的な考え方ですけれども、そういうものもアメリカの人事の中では考えられています。

 実は、そういう考え方は日本でも以前、人事担当者ではないけれども、社内の中でちょっと年の上の方が会社の生活や人生の相談役として動いていることがありました。けれども、そういう人たちがしていた機能を、今のアメリカはしっかりと「仕事」というシステムとして人事担当者の中に入れているということが、そういうカウンセリングの考え方を仕事以外のものとして考える日本とは違っている。そういうふうなカウンセリングをきちんと、社員を集中して働かせるためには必要なものだとして仕事として置いているというのが、ちょっと日本とは違うのではないかと思いました。

 今のアメリカの人事の担当者は、会社の仕事の問題もそうですし、プライベートな問題もそうですが、このように働く人々と一緒になってそういう問題を解決してあげる。そのことによって、働く人の脳内モルヒネや、やる気ホルモンを早めに出させ、そして人々を不満や不快というマイナスのストレスから早めに切り上げさせてプラスのストレス、つまり創造力とか向上心とかチャレンジ、「よし、もう一遍やってやるぞ」という気持ちを奮い起こさせる。そのような役目が、今のアメリカの人事担当者の考え方だということができると思います。


 現在、日本がぶつかっています社会の様々な変化(構造的改革の問題、競争化の波、国際化の波)は、一人の人間がとても太刀打ちできるものではありません。そういう時に、そういう壁をその人と一緒になって乗り越えてあげるという考え方を持っているアメリカの企業のシステムは、これからの日本、今のいろいろなトラブルにぶつかっている日本にとって非常に参考になるのではないかと私は思います。日本もこれから少子化に向かっていくと言われます。そうした中で、老若男女を問わず、様々な持てる能力を活用していくことが必要だという声も上がっています。企業も、様々な人の能力を逆に活用していかなくてはならない。単に、その人がいるだけでは済まなくなってきているのが実態です。

 そうした中で、今の企業は「働く人々に一体何ができるのか」「今、あなたは何に興味がありますか」というふうに問える考え方を雇用のところにもってくること、そして「俊の能力」を求めるようなシステムになっていくことが大事だと思います。また、働く人々も単にお金のため、収入のために働くのではなくて、自分の好きなこと、本当にこのことは興味がある、やっていて脳が気持ちがいいなあと思える、そのようなことに仕事というものを位置づける。そういうことが大事なことになってくるのではないかと思います。


 冒頭に申し上げました「5つのD」というのは、サナザロは人間を例にとって言いましたけれども、私は、この考え方はべつに人間だけでなく、企業や組織、また社会にも当てはめることができるのではないかと思います。企業の中に不満や不快をため込まないことによって、活性化した元気のある企業ができてくるのではないかと思います。企業の経営者も働く人々も、現実というものをかわすことなく、それをしっかりと受け止め、そして発想の転換をする。楽しいとか気持ちがいいと思えることをすることによって働く環境を整え、そしてそういう働き方、朗らかに働くということを実行することが、これからの日本にとって私はとても大事なのではないかと思います。

 私の話は以上です。どうもありがとうございました。