8)汚泥リサイクルの新技術の現状と課題
  
(独)土木研究所地盤研究グループ 上席研究員  鈴木 穰

鈴木 穰



 ただいまご紹介にあずかりました、独立行政法人土木研究所材料地盤研究グループ、リサイクルチームの鈴木と申します。
 本日は、「汚泥リサイクルの新技術の現状と課題」と題しまして若干の報告をさせていただきます。今回、汚泥リサイクルということで、建設汚泥のほうをイメージされていた方には申し訳ないのですけれども、今日は下水汚泥ということでご紹介させていただきたいと思います。
 まず、内容を大まかに申し上げますと、第1番目に下水汚泥の特徴を簡単にお話したいと思います。どういったところに下水汚泥の特徴があるか、それを用いて、今後どういうことが重要になるかというところに言及させていただければと思います。2番目が下水汚泥のリサイクルの現状ということで、過去からのトレンドもお示ししながら、どういう傾向にあるかをお話しいたします。3番目がリサイクル技術と課題ということで、若干の法規、基準類のお話をさせていただいた後に、4つの利用(緑農地、建設資材、エネルギー、有価資源回収)のお話をさせていただければと思っています。

 ではまず、下水汚泥はそもそもどういったものであるかというところをお話しさせていただきます。流入下水中にはいろいろな汚濁物が含まれますが、それが微生物を主体とする反応槽を経ることによって清澄な水を得ます。そのときに、流入下水中の有機物のある部分はCO2 になり、そのほかの部分が余剰汚泥として出てきます。大体イメージ的には皆さん、CO2 に酸化されるというのが浄化ととらえておられると思いますが、基本的に微生物というのは流入下水中の有機物を摂取して増殖し、その増殖作用を私たちは利用しています。ですから、ある程度CO2 への酸化量を多くして汚泥の発生量を少なくすることはできますけれども、基本的に微生物は自分の体を増やしたいわけですから、この余剰微生物は必ず発生するということになります。また、この流入下水というのは、都市の生活に伴う汚濁物が下水処理場に流れてきますので、先ほど「田子の浦への土砂流入の未来永劫」という話がありましたけれども、こちらも人間生活が続く限り未来永劫発生するものでして、汚泥も同様に発生し続けます。

 有機物に関しては、CO2酸化されますが、他の主要な汚濁物である窒素、リンについては、通常の処理ですと、余剰汚泥に移行する以外はほとんど処理水中に出ていってしまいます。
 下水汚泥のリサイクルを考える場合に、下水汚泥というのはどのような組成であるかを知っておく必要があります。先ほど申し上げたように、微生物が増殖するという作用を利用していますから、可燃分である微生物体、これには炭素、窒素、酸素、水素、硫黄が含まれ、それから微生物体の不燃分、社会生活から出される灰分があります。下水汚泥では概略、可燃分が4分の3ぐらい占めます。従来、有効利用といいますと、微生物体としての窒素、リンを緑農地利用するというのが主要な方法でした。最近では、なるべく処分量を減らすために、可燃分を燃やしてしまい残存部分の焼却灰成分であるシリカ、アルミ、カルシウム等を建設資材利用するという動きがあります。そのほか、従来からやっていたのですが、微生物体の炭素、水素をエネルギー利用するというものもあります。

 あとで説明しますけれども、可燃分を燃やしてしまいますと必然的に灰分がほとんど 100%になるわけですが、そのときにリンがかなり高濃度になります。焼却灰のリン含有量は20%、多いときには30%近くにもなります。これがセメント利用の場合に凝結を遅らすという問題等指摘されてもおりますし、最近、燐鉱石が枯渇するということが言われていますので、資源として有効に利用していく動きもございます。
 下水汚泥リサイクルの現状と題していますが、その前に、簡単に汚泥処理プロセスの話をさせていただきます。下水を処理して出てくる汚泥というのは99%以上が水ですが、それに凝集剤を加えて脱水することによって含水率が80%程度になります。それからさらに焼却することによって、水は蒸発し、有機分は燃焼するということで、かなり減量化が図れます。それから、この脱水汚泥をコンポスト化することによっても水分が蒸発し、また有機分が安定化しますので、農業利用が可能となってまいります。最近では重金属の安定化のために溶融という手法もあります。

 下水汚泥の処理形態について、最近のトレンドはこのようになります(添付図―1)、縦軸は固形物としての発生汚泥量ですので、最終処分量としてみれば、焼却の場合は4分の1ぐらいに減り、逆に脱水汚泥ですと水分を80%ぐらい含みますので、5倍ぐらいの量になります。汚泥処理の傾向としては脱水汚泥としての処分量が減って、コンポストについては大体十数%の比率で一定、最近は減量化のため、焼却が多くなっています。この他、溶融処理も行われています。

 この図(添付図―2)は有効利用とか最終的な処分先を示しています。最近、建設資材利用が多くなってきていますので、従来多かった埋立てが少なくなってきています。緑農地利用については大体一定の割合です。急激な建設資材利用増加のかなりの部分はセメント原料化が担っています。
 これはお手元の資料(表―1)にもありますけれども、今申し上げたことを平成11年度だけ数値で示したものです。行として示しているのは、最終的な処理手法、縦の欄は最終的な処分状況です。脱水汚泥については、かなり有機分が多く腐敗もしやすいため埋立てが主要な最終処分になります。コンポストについては、ほとんど緑農地と1対1の関係にあります。乾燥汚泥とか炭化汚泥はまだ数量が少ない状況です。焼却灰については埋立てが多いですが、先ほどお示ししたように建設資材がかなり伸びてきています。このうち、40%ぐらいがセメント原料になります。それから、溶融スラグはほとんど建設資材利用されます。

 続いて、リサイクルに関する関連法規・基準類ですが、これは皆さんご存じだと思います。緑農地利用の場合は、肥料取締法がかかわりますが、平成12年の改正により、今まで下水汚泥肥料は特殊肥料だったのが普通肥料の規格が適用されるようになりました。水銀、カドミ、砒素、鉛などの重金属類の最大含有量や溶出量が定められており、肥効成分の表示も求められるようになっています。
 建設資材利用に関しては、重金属の溶出に関する基準が適用されています。そのほか、土木研究所がリサイクル材の試験施工のために作ったマニュアルも参考にされています。
 それから、溶融スラグの路盤材やコンクリート骨材利用のTR(テクニカルレポート)が作成されるといったJIS化の動きがございます。

 緑農地利用について簡単に説明しますと、評価の指標としては、まず衛生面、病原性微生物などに対して安全であるかどうか、それから重金属等の安全性、肥料の効果があるか、実際上取り扱いの容易さがどうかが問題になります。これらを考えると、やはり脱水汚泥を好気性発酵してコンポスト化するというのが、緑農地利用の場合一般的です。このコンポスト化によって有機物が分解されるので、安定化が図られます。それから、発酵熱がかなり高い温度、70℃後半とか高いときは80℃ぐらいになる場合もありますので、その発酵熱で病原性微生物が不活化します。もともと下水汚泥は、窒素、リンの含有量が高いのですが、はカリウム分が少ないのが問題です。
私どもの研究成果で、融合コンポストというのがあります。下水汚泥は窒素、リンを多く含み、また分解し易い有機物も多いことから、温度が急激に上昇して速やかなコンポスト化が可能です。しかし、カリウム分が不足します。一方、牛糞などの畜産系の廃棄物ですとC/N比が適正値より大きくて、また繊維分が多いのでコンポスト過程が緩慢です。しかしカリウムは多い長所があします。このため、この2つを合わせると、特徴が融合して品質が向上します。2つを合わせると、それぞれ単独の場合よりも小松菜の収量が上がる実験結果が得られています。
 次に、建設資材利用については、先ほど来申し上げているように無機成分を利用するため、必然的に焼却灰、溶融スラグの形態で利用することになります。昔は石灰を混ぜて脱水し、それを焼却していたので、土壌改良材などに使っていました。最近は高分子凝集剤を使った汚泥処理が多いので、レンガ材料とかセメント原料に使われています。溶融スラグについては、先ほどJIS化の話をしましたけれども、路盤材やコンクリート骨材に利用されます。東京都では、かなりの力で圧縮をかけた後、焼成し、 100%汚泥でできたレンガを製造しています。

 溶融スラグについては、表面性状に問題が生じることがあります。水冷などの冷却速度の速い場合は、溶融スラグの表面がガラス質になります。そうするとコンクリートの骨材に用いた場合に、強度などは問題ないのですが、凍結融解の耐久性が通常の骨材よりも劣ることがあります。その問題を解決する方法の一つが、この結晶化です。
 溶融炉に再結晶炉が続いており、1回溶融したものを骨材の形にして、それをまた再結晶します。この熱源としては、溶融炉の排ガスが主に利用されています。再結晶化では滞留時間が5時間ぐらいとられ、天然石に近づける操作が行われます。これにより、表面性状が天然石に近くなり、強度も増加します。コンクリート製品の耐久性を調べてみると、天然石とほとんど変わらない結果が得られています。色は紫だったり緑色っぽかったりしますが、この施設は京都市の鳥羽下水処理場に設置されていて、結晶化スラグは良好に利用されていると聞いています。
 溶融に近いところですが、焼却灰の球状化という技術があります。焼却灰を浮遊状態で溶融しますと、大きさ10μmから20μmぐらいの球形になります。この球形は、フライアッシュと類似ということから、高流動コンクリートの混和材として土木研究所は検討しておりました。また、ある研究によると、溶融スラグ骨材にこの球形灰を混ぜると、コンクリートの耐久性が改善されたという報告もありますので、この理由の解明が待たれるところです。

 この他、下水汚泥溶融スラグの微粉末と水ガラスをセメントの主原料としたコンクリートでは、普通のコンクリートに比べてかなり耐酸性があります。下水道においては、下水中の硫酸が硫化水素に変換されて揮発し、コンクリート表面で微生物の働きにより硫酸に酸化されて、コンクリートの腐食を引き起こすことがあります。このため、耐酸性を持つコンクリートというのはかなり注目される技術です。これについては、「製法を含めた検討の進展が期待される」と書いておりますが、土木研究所では先ほどの球形化する溶融技術との組み合わせについて共同研究を行っています。
 3番目はエネルギー利用です。最初の方でお話ししたように、下水汚泥というのは生物体がかなりの割合を占めますので、高エネルギー物質です。乾いた場合は石炭と同程度のカロリーを有しています。しかし、水もかなり含みますから、燃やしても蒸発潜熱にエネルギーを取られますので、燃やしてエネルギーを回収するのは得策ではありませんでした。伝統的に嫌気性発酵、水の混じった状態で嫌気性微生物の働きによりメタンガスに変換し、気体としてエネルギーを回収するというのが一般的な方法です。

 有効利用の方法としては、ガス発電、それから嫌気性消化タンクの加温、焼却炉の補助燃料があります。ただし、嫌気性発酵は温度の影響をかなり受けますので、冬場は加温にエネルギーを要し、夏場はむしろガスが余ってくる状況にあり、ガスの発生量や利用量をどう平均化していくかということも重要な技術です。
 それで、私達が研究したのが吸着貯蔵という技術です。ガスタンクが通常は貯蔵方法として使われますけれども、その圧力を上げることには限界があります。しかし、メタンガスは活性炭に吸着させると、状態が安定するので、気体としてよりもたくさんのガス分子を保持することができるようになります。圧縮貯蔵に比べて活性炭を用いると、かなり高い倍率で貯蔵することが可能になります。
 燃料電池は、いろいろ話題を賑わしていますが、下水道においても、消化ガスのメタンを改質して水素を取り出し、燃料電池に利用するということを行っています。横浜市の下水処理場において200kWの実用機によって連続運転をしており、電池の大容量化、消耗部品の長寿命化などが今後の課題とされています。

 この他、システムの上から考えると、下水汚泥だけではエネルギーが限られます。大雑把に言って、ゴミのエネルギーの10分の1ぐらいしかありませんので、最近話題となっている家庭の生ゴミを下水道で受け入れて、より多くのメタンガスを発生させる方法。あるいは、農業廃棄物や街路樹の剪定廃材などのバイオマスを改質して下水汚泥とともにメタン発酵させる方法が、エネルギー生成の上からは考えられます。
最後に、資源としての回収があります。焼却灰中にはリンがかなり多量に含まれていますので、このリンを有価物として回収することが鋭意検討されています。その方法として、溶融により、有害重金属を分離してリン成分を有効に回収する技術や化学的反応によりリンを回収する技術が検討されています。
 最終的に申し上げたいのは、下水汚泥の特徴を把握し、それを有効に利用するかということが重要と思われます。また、どうしてもリサイクルには費用がかかりますので、いかにコストダウンしていくか、というようなことも重要であると思われます。
 以上で報告を終わらせていただきます。(拍手)


〔 質疑応答 〕

○質問  下水汚泥の場合、有機塩素化合物などはどのぐらい入っているのでしょうか。全然入っていないということでしょうか。
○鈴木  濃度的には比較的低いと考えていただいていいと思います。今は、いわゆる環境ホルモン物質が鋭意検討されております。
○質問  例えば、環境ホルモンが入ったものでも発酵処理すれば緑地などには使えるのですか。
○鈴木  それについては今、検討中で、今まで分かっているのは、コンポスト化した下水汚泥を土壌に混ぜてしばらく時間を置きますと、ノニルフェノール分解の傾向が見られています。
○萱嶋  それでは鈴木先生、大変ありがとうございました。

講演時のスライドはこちらです。


 

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