汚泥リサイクルの新技術の現状と課題

 

独立行政法人土木研究所 材料地盤研究グループ

リサイクルチーム 鈴木穣

 

【要旨】下水道の整備進展に伴って下水汚泥の発生量が増加してきており、リサイクルの推進が求められている。これまで、下水汚泥の緑農地利用や建設資材利用が行われてきたが、さらにリサイクル率を上げるため、活発な技術開発が行われている。講演では、下水汚泥処理・処分および有効利用の現状を概説し、汚泥リサイクル技術の概要と最新技術を紹介するとともに、今後の課題について言及する。

 

1.はじめに

下水道の整備進展に伴って、下水汚泥の発生量は増加してきており、平成11年度で189万t(乾燥固形物重量)に達している。今後も、下水道普及率の向上や高度処理実施箇所数の増加により、下水汚泥の発生量は増加するものと考えられる。

一方、平成12年に制定された循環型社会形成推進基本法では、@原材料の効率的利用や製品の長期間使用による廃棄物発生の抑制(リデュース)、A循環資源の再使用(リユース)、B再使用できなくなったものの再生使用(リサイクル)、C最終的に資源として使えなくなったものの熱利用、が求められている。

このような情勢のもと、下水汚泥についても、資源としての再生使用(リサイクル)が求められている。

 

2.下水汚泥処理・処分および有効利用の現状

平成11年度における下水汚泥の処理・処分および有効利用の現状は、表-11)に示すとおりである。発生する下水汚泥の39%が埋立処分されているが、緑農地利用が14%、建設資材利用が44%と、有効利用の割合が58%となっている。近年、埋立処分の割合が減少し、建設資材利用の割合が増加する傾向にある。特にセメント化の伸びが著しく、建設資材利用の約半分を占めている。

 

表-1 下水汚泥の処理処分および有効利用の状況 (千tDS/年)

最終安定化状態

最終安定化先

 

計 [%]

埋 立

緑農地

建設資材

海洋還元

その他

液状汚泥

0

0

0

0

0

0

0.0

脱水汚泥

120

28

25

4

1

178

9.5

コンポスト

0

211

0

0

0

211

11.2

乾燥汚泥

17

22

0

0

15

54

2.9

炭化汚泥

0

2

1

0

0

2

0.1

焼却灰

601

8

731

0

2

1,342

71.5

溶融スラグ

1

0

62

0

28

90

4.8

739

270

819

4

45

1,877

100

[%]

39.4

14.4

43.6

0.2

2.4

100

 

(平成11年度)

 

3.下水汚泥のリサイクル技術

 下水汚泥のリサイクルの内容は、大きく、緑農地利用、建設資材利用、エネルギー利用、有価資源回収に分類される。そして、下水汚泥原料の形態ごとに、乾燥、発酵、焼却、溶融などの処理工程が適用され、肥料、路盤材、燃料などに再資源化される。なお、リサイクルにあたっては、関連する法規などの基準を満足する必要がある。

 

3.1 下水汚泥リサイクルに関連する法規・基準類

 緑農地利用に関しては、平成1210月の肥料取締法の改正により、下水汚泥肥料は、「特殊肥料の規定」に代わって「普通肥料の公定規格」を遵守することが求められるようになった。安全性に関しては、肥料中の水銀、カドミウム、砒素などの濃度最大値が定められ、また、主要成分の含有量などを記載することが必要となっている。この他、農用地における亜鉛濃度の管理基準が環境庁通達により示されている。

 建設資材利用に関しては、公共事業実施者が下水汚泥再生資材などを試験施工に用いる場合のため、資材の試験評価マニュアル案2)が平成11年9月に建設省土木研究所(当時)から発刊されており、溶融スラグなどをアスファルト舗装やコンクリートの骨材に利用する場合の試験評価方法が掲載されている。

 さらに、下水汚泥の溶融スラグについては、一般廃棄物の溶融スラグとともに、路盤材やコンクリート骨材利用のためのJIS化検討が行われている。平成13年度には、路盤材やコンクリート骨材利用のTR(テクニカルレポート(標準情報))原案が取りまとめられ、経済産業省に提出されている。

 

3.2 緑農地利用

(1)技術の概要

 下水汚泥を緑農地利用するに当たっては、衛生面、安全性、肥効性、取り扱いの容易さが評価の指標になる。これらを満足する方法としては、脱水汚泥の好気性発酵(コンポスト化)が上げられる。発酵によって下水汚泥中の有機物が安定化されるとともに、発酵熱に伴う高温化によって病原性微生物も不活化される。

 全国のコンポスト施設23箇所を対象としたアンケート調査結果3)によると、コンポストの成分のうち、肥料取締法の規制項目については基準値を超過するものはなく、産業廃棄物に関する金属等の溶出量についても基準値を下回っていたことから、下水汚泥コンポストの安全性が確認されている。なお、銅、亜鉛、石灰については、3割~5割の施設で、生産者保障票に記載が必要となる含有量となっていた。肥効成分については、窒素、リンの含有量が高いため肥料として適しているが、カリウム分が不足する傾向にある結果となっている。

 また、緑農地利用推進のため、下水汚泥資源利用協議会では、平成83月に「下水汚泥の農地・緑地利用マニュアル」4)を作成し、生産管理、品質管理、施用基準などを取りまとめている。平成138月には、「下水汚泥コンポスト施設便覧」5)が日本下水道協会から発刊され、コンポスト化施設の概要の他、コンポスト化を促進するためのマーケティング戦略などが取りまとめられている。

(2)融合コンポスト

 最近、廃棄物のリサイクル推進と肥料性状の改善の観点から、下水汚泥を他の原料と混合して肥料化する融合コンポストの方法が開発されている。

下水汚泥は、窒素・リンを多く含有しており、また、易分解性有機物が十分に存在するため、コンポスト化が活発かつ速やかに進行するが、カリウム分が不足する欠点がある。一方、畜産廃棄物である牛糞は、窒素-炭素比(C/N)が有機肥料の適性値よりも大きく、粗繊維分のためにコンポスト過程が低温で緩慢であるが、カリウム分を多く含むという特徴がある。このため、下水汚泥と牛糞を混合してコンポスト化することにより、両者の特徴が融合し品質の向上したコンポストが得られる。

下水汚泥と牛糞の融合コンポストを小松菜に施用した結果では、下水汚泥あるいは牛糞単独の施用に比べて、収量が増加する結果が得られている6)

 

3.2 建設資材利用

(1)技術の概要

 建設資材利用は、下水汚泥中の無機成分を建設資材として利用するもので、焼却灰や溶融スラグの形態のものが適用される。石灰系焼却灰では、成分としてカルシウムの水硬性を利用した土壌改良材や路盤材などへの利用、高分子系焼却灰では、ケイ素やアルミナ等を利用したレンガ材料やセメント原料への利用などがある。一方、溶融スラグは、路盤材やコンクリート骨材として利用される。

 下水汚泥の建設資材利用を促進するため、「下水汚泥の建設資材利用マニュアル(案)」が平成13年6月に改定・発刊された。この中では、焼却灰や溶融スラグの物理化学特性、建設資材製品の規格および製造方法、品質・安全管理の方法、製品の利用例などが示されるとともに、製品流通にとって重要であるマーケティング戦略も取りまとめられている。

(2)アスファルトフィラーへの適用

 アスファルトフィラーは、アスファルト舗装の表層に用いられる材料で、アスファルトともに骨材間の空隙を充填し、舗装の安定性や耐久性を向上させるために使用される。フィラーには通常、石粉が用いられるが、下水汚泥の焼却灰の特性がこれに近いことから、適用が検討された。

 焼却灰の物性試験結果8)によると、水分や粒度、塑性指数などは石粉と同程度であり、規格値等を満足するものであったが、焼却灰単独ではフロー試験結果を満足することができなかった。このため、焼却灰は石粉と混合した上で、フィラーに利用されている。

(3)溶融スラグの結晶化

 水冷など冷却速度の速い溶融スラグについては、材質がガラス質となるため、表面性状や強度が特定の再利用用途には適さない場合がある。溶融スラグの適用範囲の拡大を目的として、ガラス質を天然石の材質に近づけるために、溶融設備に結晶化設備を付加している例9)がある。溶融炉から排出された溶融物は、冷却・固化された後、結晶化炉で再加熱され、結晶質への改質が行われる。結晶化の熱源には、溶融設備からの燃焼排ガスが利用されている。

 結晶化スラグの物理性状は、アスファルトやコンクリートの骨材規格を満足している。特に、結晶化することにより強度が天然石のそれに近づき、すりへり減量の値が良好となっている9)

(4)焼却灰の球状化

 焼却灰を浮遊状態で溶融することにより、粒径が20μmほどの球形灰が得られる。この球形灰は、コンクリート混和材であるフライアッシュと類似した物性を持っていることから、高流動コンクリートの混和材としての適用が可能である10)。また、球形灰は溶融処理を受けていることから、金属の溶出特性が焼却灰より優れている。

 溶融スラグ骨材を使用したコンクリートに球状化焼却灰を添加した場合、コンクリートの強度やコンシステンシー、耐久性の改善が見られたとの報告11)もあり、今後の更なる検討が期待される。

(5)耐酸性コンクリート

 下水汚泥溶融スラグの微粉末と水ガラスをセメントの主原料としたコンクリートは、耐酸性を示す。5%および10%の硫酸溶液にコンクリート供試体を浸漬させたときも、下水スラグと水ガラスからなる耐酸性コンクリートでは、重量変化がほとんどなく12)、良好な耐酸性が示されている。普通コンクリートの弱点である耐酸性を補うものとして、製法などを含めた検討の進展が期待される。

 

3.3 エネルギー利用

(1)技術の概要

 嫌気性消化により生成されたメタンガスは、高エネルギー物質である。このため、このエネルギーを利用して、ガス発電を行ったり、消化タンクの加温や焼却炉の補助燃料に利用する方法がある。しかし、気温の年間変動によって、冬場においてはより多くの消化ガスが消化タンクの加温に必要となり、一方、夏場においては消化ガスが余剰となる13)。このため、消化ガスのエネルギー源としての利用性を高めるには、余剰ガスを貯蔵し、年間を通して安定した消化ガス供給が可能にする必要がある。

 また、消化ガスを電気エネルギーに変換して利用する場合、変換効率の高さと周辺環境への影響を考える必要がある。

(2)消化ガスの吸着貯蔵

 消化ガスを貯蔵するための一般的な装置はガスタンクであり、圧力を上げれば貯蔵量を増加させることができるが、高圧には限界がある。一方、活性炭を吸着材とした貯蔵法では、ガス分子が吸着材に付着して安定化する(図-1)。このため吸着貯蔵法では、同じ圧力に対して、ガス貯蔵量が飛躍的に増大する14)。鶴岡市において、パイロットプラント実験の後(図-2)、実施設が建設中である。


 

 


図-2 消化ガスの吸着貯蔵のイメージ        図-3 消化ガス吸着貯蔵のパイロットプラント

 

(3)燃料電池

 消化ガス中のメタンを改質器等により水素と二酸化炭素に変換し、得られた水素を燃料電池に供給して、酸素との反応により電気エネルギーを得るものである15)。現在、200kW出力の実用機により連続運転が行われており、燃料電池の大容量化、消耗部品の長寿命化が課題とされている。

 

3.4 有価資源回収

 下水汚泥の焼却灰中には、将来の枯渇が心配されているリンが高濃度に含まれている。汚泥を嫌気性消化すると高濃度のリンが液側に放出されるため、これを不溶化し回収する方法としてMAP法や晶析脱リン法16)が検討されている。

汚泥焼却灰中に含まれるリンについては、アルカリ溶出の後に、溶媒によりリンとアルミニウムを分離し、リンは最終的にヒドロオキシアパタイトとして、また、アルミニウムは硫酸アルミニウムとして回収する方法が提案されている17)

この他、焼却灰にマグネシウムやカルシウムを添加して溶融し、リン肥料として利用する方法18)や、焼却灰を還元溶融し、揮発した黄リンを回収する方法19)、生物学的リン除去法の汚泥から、熱抽出とカルシウム凝集によりリンを回収する方法20)が検討されている。

 

4.おわりに

 下水汚泥のリサイクルを進めることは、社会の要請である。このため、更なるリサイクル技術の発展が望まれる。

それと同時に、リサイクル技術を検討するにあたっては、下水汚泥の成分、性状、特性を十分に把握し、また、社会的条件も加味して、下水汚泥の特徴に適合した技術となるようにすることが必要である。

 

参考文献

1) 斎野秀幸,中島英一郎(2002)下水汚泥処理および有効利用の変遷と現状,再生と利用,25(94)97-102

2) 猪熊明(1999)公共事業における試験施工のための他産業再生資材試験評価マニュアル案,土木研究所資料第3667

3) 斎野秀幸,森田弘昭(2001)土木研究所での近年の調査-下水汚泥コンポスト施設便覧の発刊に寄せて-,再生と利用,24(93)22-28

4) 下水汚泥資源利用協議会(1996)下水汚泥の農地・緑地利用マニュアル

5) 社団法人日本下水道協会(2001)下水汚泥コンポスト施設便覧-2001年版-

6) 森田弘昭(2000)下水汚泥と牛糞の融合コンポスト化法の開発,再生と利用,23(88)74-78

7) 社団法人日本下水道協会(2001)下水汚泥の建設資材利用マニュアル()2001年版-

8) 宮澤裕三(2001)汚泥焼却灰のアスファルトフィラーへの適用について,再生と利用,24(92)57-59

9) 長田博文(2001)スラグ結晶化の現状と将来,再生と利用,24(92)94-98

10)      尾崎正明,久保忠雄(1998)下水汚泥処理過程における重金属等有害物質の制御技術に関する研究,土木研究所資料第3661号(平成10年度下水道関係調査研究年次報告書集),79-84

11)      臼田純一,遠山暦紀,佐々木肇,喜多達夫(2001)溶融パウダーと溶融スラグを細骨材に用いたコンクリートの特性,第12回廃棄物学会研究発表会講演論文集,527-529

12)      岡本豊重,杉山章(2000)下水スラグを用いたヒューム管等の耐酸性コンクリート製品について,再生と利用,23(86)84-89

13)      落修一(2002)消化ガス(バイオガス)の生産・利用促進のための技術,再生と利用,25(94)18-24

14)      森田弘昭,落修一(2001)下水汚泥保有エネルギーの高度利用システムに関する調査,国総研資料第10号(平成12年度下水道関係調査研究年次報告書集),197-200

15)      深町政晴(2002)横浜市における汚泥集約処理と消化ガスの有効利用,再生と利用,25(94)37-46

16)      森山克美(2000)下水からのリン回収と肥料化,再生と利用,23(89)16-24

17)      洙田泰臣(2001)下水汚泥焼却灰中のリンの回収について-溶媒抽出法-,再生と利用,24(91)64-69

18)      桑子松司,岩井良博,小松貴司(2001)焼却灰のリン肥料化に関する基礎的研究,第38回下水道研究発表会講演集,806-808

19)      山本浩,中原啓介,南條行雄,田部井清吉,桑山通郎(2001)下水汚泥焼却灰の還元溶融によるリン回収プロセス,再生と利用,24(91)70-75

20)      大竹久夫,黒田章夫,糠信輝領謹,桂健治,水上俊一(2001)下水中のリンの回収・再資源化システムの研究,第38回下水道研究発表会講演集,628-630