土壌汚染対策の忘れ物

○ 不良債権額の拡大
 中堅メーカーが国内の工場を閉鎖してその土地の売却資金で東南アジアへの工場移転を計画していたが、工場跡地で土壌汚染が判明。売却計画が進まず、海外移転計画がたなざらしになっている。
 
 「土壌汚染対策法は銀行の不良債権処理を妨げる恐れがあります」。日本に進出する米国企業で組織する在日米国商工会議所(東京・港)は3月、法案を審議中の政府に意見書を提出した。調査・浄化責任を負う土地所有者の中から、担保権を行使して一時的に土地の所有者となった金融機関を除外するよう求めたのだ。
 外資系の金融機関は日本の銀行から不良債権を一括(バルク)の形で購入している最中。「担保権を行使した土地に汚染が見つかると、費用は膨大なものになる」(ロバート・F・ グロンディン代表)というわけだ。法律にはこの要求は明確な形で反映されていない。環境省は、政省令で除外規定を盛り込めるかどうか検討中だ。
 
_  国内金融機関への影響を懸念する声も出始めた。「土壌汚染によって銀行の不動産担保の価値が減少するリスクがある」(日本政策投資銀行社会環境グループ)ためだ。日本不動産研究所(東京・港)の広田裕二主席研究員は「これからの不動産価格は、従来の価格から土壌調査・浄化費用を差し引き、さらに汚染が発覚した場合の『スティグマ(風評被害)』のコストを除いたものになる」と予想する。
 
 国土交通省は、2003年から不動産鑑定に土壌汚染の影響を考慮させる方針を打ち出した。また、2006年3月期に迫る減損会計の本格導入を前に、銀行が保有資産の評価に土壌汚染の影響を反映させなければならなくなるのは必至。土壌汚染問題に詳しい専門家は「銀行が破たん懸念先企業の担保不動産を、土壌汚染を加味して再評価しはじめたら不良債権額はたちまち膨らむだろう」と内情を明らかにする。
 
○ 搬出した土、不法投棄も!
_  「汚染土が知らず知らず拡散する恐れもある」。民間の政策シンクタンク「構想日本」の加藤秀樹代表はそう指摘する。土壌汚染対策法は、あくまで土地にかけられた法律。
 このため、調査する前に汚染された土を外部に運び出してしまえば、その土地は対策法上「シロ」ということになる。搬出した土は現状では廃棄物としてみなされず、廃棄物処理場での処分は難しい。勢い、浄化費用もかからない方法として遠方の山間地に投棄する行為を誘発しかねない。
 加藤氏は、土の移動時も含めた徹底した調査と汚染土地が記載された台帳を簡単に閲覧できる情報公開の仕組みを提言する。
 
 土壌汚染対策法の細かな運用規定を定める政省令は年末までに決まる。法律は、住民の健康を守るうえで必要なルールだけに施行の遅れは許されない。ただ、今後は環境省だけでなく経済産業省など関係省庁が協力し、企業の支援措置など包括的な対策を取らなければ、せっかくの法も十分な成果は期待できない
 
○ 支援措置が限定的!
 政府は、土壌浄化における税制の優遇措置などの支援策を用意したが「効果は限定的」との声が多い。また、汚染者を特定できずに過度の所有者負担となる場合の助成措置として官民で出資する百億円規模の基金設立計画を打ち出したが、民間側から「汚染者負担が原則」(日本経済団体連合会)と協力を断られ具体化が遅れている状態だ。
 
先進国の主な土壌汚染対策法
名称 制定年 主な内容
米国 スーパー
ファンド法
1980年 米・ニューヨーク州で起きた化学物質の汚染問題「ラブキャナル事件」を契機に制定された。汚染の調査や浄化は米国環境保護局が行い、汚染責任者を特定するまでのあいだ、浄化費用は石油税などで作った信託基金(スーパーファンド)から拠出する。浄化費用の負担は土地所有者だけでなく、汚染原因者、土地に出入りした輸送業者、土地所有者に融資した銀行など広範に及ぶ
オランダ 土壌保護法 1994年 1982年に暫定土壌保護法を制定し、政府が費用負担して汚染土壌を浄化した後、特定された汚染原因者に請求する方式を採用していた。94年の法改正で、地方政府が土地所有者、汚染原因者などに浄化命令を出す仕組みに変えた
ドイツ 土壌保護法 1998年 土壌汚染の疑いがある場合、汚染原因者、現在の土地所有者に加え前所有者の一部が汚染を調査する。調査の結果、汚染がなかった場合は、行政側が費用償還に甥汁。汚染発見後は、汚染原因者、土地所有者など幅広い関係者が浄化義務を負う